データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エヴァンス豪外務貿易相による議長総括

[場所] キャンベラ
[年月日] 1989年11月7日
[出典] 通商産業省資料
[備考] 仮訳
[全文]

序{前1文字下線}

1.本会議は、アジア・太平洋地域の12のダイナミックな経済から、主要な政策決定者をかつてない形で集めた。12の経済とはブルネイ、カナダ、インドネシア、日本、大韓民国、マレイシア、ニュー・ジーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、米国、オーストラリアである。この広大な地域の閣僚がここに集い、建設的に、かつ多大の親愛の情と決意をもって経済面における共通の関心事項に取り組んだことは、まさに今やアジア・太平洋経済協力の過程を進める時期であることを示す。

2.この会議に弾みを与えたのは、より実効的なアジア・太平洋経済協力に向け、1989年1月にホーク豪外相が行った呼び掛けであった。この提案は、域内経済の相互依存関係の深まりに伴い、

○多角的貿易体制を強化し、ウルグアイ・ラウンドの成功の可能性を高めるため、

○アジア・太平洋地域内における貿易と投資の流れの拡大の方途とこれに対する障害を分析する機会を提供するため、及び、

○実際的かつ共通の経済的利益の範囲を明らかにするために、

域内の政策決定者間の実効的な協議の必要性が生まれているとの認識に基づくものであった。

3.この提案を策定し、フォロー・アップする過程において、豪州は、ASEAN及びその他の参加国と密接に協力しつつ、域内経済協力の緊密化に係る従来の諸提案に方向性を与えることに努めた。1月以降、本会議に至るまで続けられた精力的な協議は、こうした意味で成功を収めた。すなわち、我々は、本会議を通じ初めて、地域の経済的見通し、及び近年の目覚ましい成長のモメンタムを維持することに資する種々の要因、並びにもし予知されない場合には、将来の発展を阻害することとなりかねない諸問題について、共にある程度掘り下げて検討を行う機会を得た。

4.過去2日間の我々の検討において一貫して浮かび上がった主要なテーマは、人々の生活水準の向上にも様々な関わりを有する本地域の経済的成功の維持は、ガットの枠組みを漸進的に強化し、これを遵守することを通じ、多角的貿易体制を維持、改善することに依存しているとの点である。ウルグァイ・ラウンド、そしてそれ以降において、こうした努力に貢献することによって、この地域は自らの経済的将来を確たるものとするとともに、世界経済全体の見通しを明るいものとすることができる。我々は全て、開放多角的貿易体制がこれまでの地域の急速な成長にとって極めて重要であり、今後ともそうであるとの点で一致している。我々の誰も貿易ブロックを創設することを支持するものではない。

世界及び地域経済の発展{前11文字下線}

5.世界及び地域経済の発展に関する我々の意見交換、域内各経済の将来が如何に相互に関係しているかを如実に示すものであった。我々の議論は、近年域内で生じている構造的変化の速度と現在現われつつある地域的及び国際的な特化の新たなパターンによって、様々な機会がもたらされていることを示した。また、我々の議論は、この地域の成長に当って、健全なマクロ、ミクロ経済政策と市場志向型の改革が果たした貢献を強調し、これらの事項についての経験を比較しあう有益な機会となった。

6.出席者は、域内各経済の相対的な力が変化し、相互依存関係が深まっていることに留意した。参加者は、ここ7年近くにわたり米国がインフレなき経済成長を続けていることは、本地域の経済実績において主要な役割を果たしてきていることに留意した。参加者は、また、日本他の西太平洋の経済が、本地域の成長のエンジンとしての役割を一層果していることを歓迎した。最近数十年間において本地域のあらゆる部分で生活水準の向上が見られることは、特に歓迎された。アジア・太平洋経済協力の一つの重要な側面が、太平洋の島嶼国を含め本地域の相対的に遅れた部分における加速的な成長につながる環境を維持することにあること、及び先進国市場への自由な参入が、こうした成長にとって枢要であることが合意された。

7.会議はまた、成長を促進し、アジア・太平洋の各経済の生産的な相互依存関係を深めるに当たってのいくつかの潜在的脅威に留意した。仮りに構造変革を実施する意欲を持続することなく、保護主義の発動が増加し、また、貿易を一層自由化する積極的な共同国際行動がとられるのではなく、報復的または防衛的措置がとられることとなれば、近年の積極的発展が阻まれる惧れがある。

貿易の自由化―アジア・太平洋地域の役割{前18文字下線}

8.ウルグアイ・ラウンドが我々にとって多角的貿易体制を強化し、これを一層自由化するための主要な、最も手近な、かつ実際的機会であることについては、一般的認識があった。すべての閣僚は、ウルグアイ・ラウンドが時宜を得て、かつ成功裡に終了することが域内経済と世界経済の双方にとって重要であることを強調した。この関連で、閣僚達は引き続き緊密な協議を継続し、可能な場合には、各自のウルグアイ・ラウンドにおける交渉目的を相互に支持し合うことが、このような結末に大きく貢献し得ることに合意した。

9.この関連で、貿易政策に関係を有する閣僚たちが1990年9月初旬に会合し、現れつつある結果につき話合い{前3文字ママ}、多国間貿易交渉の包括的かつ野心的な成果をはばむ障害をとり除く方途を検討することにつき合意が見られた。閣僚達は、ついで、ウルグアイ・ラウンド最終会議に先立つ12月初旬にブラッセルで再会することとなる。その間に、多国間交渉の進展につき意見交換すべくジュネーブにおいて高級事務レベルで定期的に会合すべきである。

10.閣僚達は、ウルグァイ・ラウンド{ウルグァイのァは原文ママ}が時期を得て成功裡に終了することへの強い支持を表明した。閣僚達は、ラウンドの1990年12月終了が達成されるためには、多くのなすべきことが残っていることに留意した。閣僚達は、全ての締約国がこの目的に向け一層精力的に共に努力することを呼びかけた。

11.閣僚達は、アジア・太平洋地域が世界的な貿易の自由化を促進することに長期的な共通の利益を有することに合意した。共に努力することによって、本地域は、ガットのみならず、OECDや例えばITUの如き特定分野の機関を含め種々の重要な国際経済場裡に建設的な見解を注入することができる。我々の地域の各経済は、域外国を差別することなしに域内貿易への障害を削減する最近の傾向を持続することができれば、このような指導力を示すことができよう。本地域におけるこのような貿易の一層の自由化を進める基礎として現在出現しつつある域内貿易のパターンと進展、及びかかる進展の経済的影響についてのより良い情報が必要とされていることについて更に合意された。

特定分野における地域協力{前12文字下線}

12.アジア・太平洋地域における急速な成長及び相互依存の深まりは、セクターレベルにおいて諸々の挑戦と共に諸々の機会を生み出している。

13.投資、技術移転、及びこれに関する人材養成の分野における協力の可能性に一層の焦点を置くことが有益であることにつき合意が得られた。

 検討が求められる分野には次のものが含まれる。

−人材養成のための協力プログラムについて

−科学、技術及び産業に関する指標、政策、進展に関する情報交換強化の可能性について

−海外直接投資に関する統計の比較可能性を増大する可能性について

−共同努力による研究及び開発プロジェクトを行う可能性について

14.閣僚達は、地域のインフラの充足状況につき討議を行った際、急速な成長の結果、如何なるボトルネックが生じうるかを予知する能力を向上させうる技術の開発を図ることは有益であろうとの結論を得た。電気通信、海運及び航空を含むインフラ関連の特定分野における一層の協力を探るための作業については、一般的な支持が得られた。

15.閣僚達はまた、エネルギー、資源、漁業、環境、貿易促進及び観光を含む他の分野に協力を広げる可能性を一層明確化する必要性に留意し、政府関係者が、将来の会合での検討のため他の分野における予備的作業を進めるべきことにつき合意が得られた。

アジア・太平洋経済協力の一般原則{前16文字下線}

16.これら全ての分野に亘る議論は、参加国が共通に有している広範な経済分野における利益を際立たされることとなった。特に、アジア・太平洋経済協力に関し、下記の諸原則につきコンセンサスが得られた。

○この地域の成長と発展を持続し、ひいては世界経済の成長と発展に貢献することが、より拡大されたアジア・太平洋経済協力の目的。

○本件協力は、社会・経済システム及び現在の発展水準の違いを含むこの地域の多様性を認識すべきこと

○本件協力を進めるにあたっては、すべての参加国の見解を等しく尊重しつつ、自由な対話とコンセンサスにコミットする必要があること

○本件協力は、アジア・太平洋経済間の非公式かつ協議的性格の意見交換に基礎を置くべきこと。

○本件協力は、共通の利益を増進し相互の利益に適う可能性をもつ経済分野に焦点を当てるべきこと

○本件協力は、アジア・太平洋経済の利益に沿って、開かれた多国間の貿易体制の強化を目指すものであるべきこと。貿易ブロックの形成を意味するものではないこと。

○本件協力は、商品、サービス、資本及び技術の流れを促進すること等により、この地域及び世界経済の双方にとって相互依存からもたらされる利益を拡大することを目指すべきこと。

○本件協力は、正式な政府間機構であるASEANやより非公式な協議機関である太平洋経済協力会議(PECC)等のこの地域の既存の組織を補完し、かつその成果を引き出すようなものであるべきであり、それらの存在意義を減少させるものではないこと。

○アジア・太平洋地域の諸経済地域の参加については、この地域との経済的結び付きの強さに照らして考えられるべきであり、全ての参加国のコンセンサスに基づきその範囲が将来拡大されうること。

地域経済協力の推進{前9文字下線}

17.更なる協議会合{前7文字下線}

 参加各国の基本的な経済利益に影響を与えるような広範囲の重要な問題が本地域に存在することは明らかである。閣僚達は、現段階で閣僚レベルのフォーラムの構造(また、このために必要となる支援組織)を決定することは時期尚早との点で一致したが、種々の構想が出つつあるところ、協議のため更に会合を重ね、共通の利害関心事項について作業を実施することが、適切かつ重要であることにつき合意した。従って、閣僚達は、1990年央に第2回の閣僚レベルの協議会合を主催するとのシンガポールの招待を歓迎するとともに、1991年に第3回目のこのような会合を主催するとの大韓民国の申し出も歓迎した。更に、今後このような会合が開かれる場合には、少なくとも1回おきにASEANのいずれかの加盟国で会合が開かれることが適切であることにつき合意された。

18.作業計画{前4文字下線}

 閣僚達は、協力がますます形ある成果に結び付いていくためには、協力のプロセスは、一般的原則に関する合意の段階から更に進んでいく必要があることにつき合意した。このことは、具体的プロジェクトを特定・実施するとともに、我々の共通利益をより体系的な形で特定することを可能とするための客観的、専門的な分析能力の向上を必要としよう。この関連において閣僚達は、以下の大まかな分野を作業計画の発展の基礎として特定した。

○経済面の研究{前6文字下線}

 地域の経済見通しに関する検討と分析及びこれらの政策への意味合い、また、域内経済及び貿易データの改善に関するものを含む。

○貿易自由化{前5文字下線}

 ウルグアイ・ラウンド交渉において時宜を得、かつ包括的な成果を追及するとの観点から閣僚及び事務レベルにおける参加各国間の協議に当面の焦点が置かれる。

○投資、技術移転及び人的資源開発{前15文字下線}

 情報交換及び訓練のためのプログラムを含む。

○特定分野の協力{前7文字下線}

 観光、エネルギー、貿易振興、環境に係る事項、及びインフラストラクチュアーの開発などの分野

19.これらのカテゴリーの下で、閣僚達は、更に地域経済協力のプロセスを促進する上で大きな潜在的可能性を有する広範な具体的活動あるいはプロジェクトを特定した。これらは、本サマリー、ステートメントの付属文書に列挙されている。これらの事項については、実効{前1文字ママ}可能な短期・中期的作業計画を軌道に乗せるべく、今後参加国から出されるべき他の提案とともに、高級官吏によって詳細に検討されることが合意された。この作業計画の実施に係る進展は、次回の閣僚レベル会合において検討される。

20.閣僚達は、次の2つのプロジェクトができるかぎり早く進められるべきことに合意した。

 (a)域内貿易の流れとその動向(財、サービスの双方を含む)及び資本の流れ(直接投資を含む)に関するデータのレヴュー。その目的は、

  −域内のデータの比較可能性を改善する必要のある分野を特定すること、

  −データの欠落している部分を特定し、国毎及び産業分野毎のカバレッジを改善すること、及び

  −必要に応じ、新たなデータベースを開発すること、

にある。

 (b)域内諸国における貿易、投資及び技術移転の機会を特定しやすくするメカニズムの検討。

 これには、例えば次のものが含まれよう。

  −特に中小規模の産業について具体的プロジェクトを特定するための産業分野毎の合同産業グループの設置

  −商業機会に関するデータ・ベース

  −産業団体の域内連携の促進

  −具体的な共同プロジェクト投資に関する検討、及び

  −企業間のリンケージ

が含まれる。

 これらのプロジェクトの実施のための詳細な手続きについては、高級官吏が次回の会合において処理することが合意された。

21.一部の閣僚は、何らかの種類の特定の構造的仕組を通じてAPECプロセスの将来の必要を充足するべく可能な限り早く進むことが好ましいとの意向を表明したが、支援機構の構造の検討は今後の熟慮と協力プロセスの進展から得るところがあろうとの点で意見が一致した。従って、閣僚達は次回または、第3回の閣僚レベルの会議の準備は参加各経済の高級事務レベル代表にASEAN事務局の代表が加わって総攬して行くべきことにつき合意した。

22.上記の高級事務レベル会合は、早期に、望むらくは1990年1月までに、まず前述の作業計画を策定すべく開催すべきことに合意を見た。

23.フォロー・アップの作業は、PECCタスク・フォースの作業を含むアジア・太平洋地域内の現在の分析能力をも利用すべきことにつき合意を見た。PECC常設委員会議長は、この関連でPECCが貢献する容易{前2文字ママ}がある旨表明した。

24.参加{前2文字下線}

 閣僚達は、中華人民共和国並びに香港及び台湾の経済地域がアジア・太平洋地域の将来の繁栄にとってもつ重要性に留意した。上記に示されている協力に係る一般的な原則を考慮し、かつAPECがアジア・太平洋地域における重要経済地域の高級代表間での協議のための非公式なフォーラムであることを認識し、閣僚達は、アジア・太平洋経済協力のプロセスへのこれら3つの経済の関与について更に検討することが望ましいということで合意した。

25.上記の関連で、高級事務レベルで、これら及び太平洋島嶼国を含む他の経済地域のAPECプロセスへの将来の参加にかかる諸問題を検討すべくさらに協議させ、次回のAPEC閣僚レベル会合に報告させることが適当なることにつき合意が見られた。

結論{前2文字下線}

26.2日間の討議を通じ、我々は価値ある前進を遂げたと私は確信している。我々は、過去にアジア・太平洋経済協力の推進を探求してきた先達の努力を基礎とすることができ、また、今後さらなる前向きの進展を期待することができる。こうした進展は、より注意深いコンセンサス造りを基礎に、ASEANのたぐい稀なる機構とプロセス及びPECCの分析能力といった既存のメカニズムを建設的に活用しつつ、実現していくであろう。

27.我々は全て、この多様かつダイナミックな地域からの指導者が一連の重要な事柄についてコンセンサスに達することができたことを歓迎する。この会議で示された好意と柔軟性の精神をもってすれば、我々はアジア・太平洋経済協力をこの地域の利益だけでなく世界全体の経済的繁栄に資するよう発展させることができると確信するに十分である。