データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 田中総理大臣記者会見詳録

[場所] 
[年月日] 1972年9月30日
[出典] 外交青書17号,541−549頁.
[備考] 中国より帰国後
[全文]

 (田中総理) 本月25日から6日間,一週間にみたない短い期間であつたが,日中国交正常化という長い懸案解決という面からみると,濃密な毎日だつたと思う。

 この期間マスコミ各位が寄せられた御好意に感謝している。また,わが国の発達したマスコミに対して中国側でも驚いていた。向う(中国)のことがよく見えないので―よく灯台もと暗しというが―こちら(日本)で放映されたものがまた打ち返されて,それがもとになつて,正確な判断ができたと,けさ機内で話しあつた。皆さんのお力添えで,この間の実情が国民各位に十分御理解していただけたということに深く感謝している。

 われわれは周総理の招待により訪中するという形だつたが,これは非常に意義ある会談だつたと思う。近くて遠い両国だつた・・・・・・先方にいわせると,半世紀に及ぶ正常ならざる状態―日本人は幾星霜などというが―その両国が国交正常化を行なう・・・・・・それが両国のためだけではなく,アジアの平和及び世界の平和に貢献するという大きな願いをかけて会談することであつたので,率直に意見を述べあつた。外交交渉にはなかなか言いにくい物事もあるが,すべて率直な意見の交換を行なつた。

 この会談は実り大きなものという表現で表わされているが,この会談が始まつたその瞬間からお互の立場を考えるといろいろなことがあつた。しかし,「日中の国交の正常化,新しい国交のスタートにすべてをかけよう。そして将来に期待をかけることで過去のいろいろな問題,立場というものよりも,将来の両国の関係にウェートを置こう」と,こういう考えがないとこの会談はなかなかまとまらなかつただろう。だから,「日中の国交正常化という一点だけを実現するために,誠意をもつて精力的に会談いたしましよう。」と,そういう姿勢が会談を成功に導いたものと思う。

 皆さんは一日ぐらいづつ早く,“あしたは合意か”などと報道されていたようだが,そんなにしかく簡単なものではなかつた。それならもつと過去にもできたのであり,なかなか出来そうで出来なかつたのだ。どたん場まで互に主張しあつたら,合意できなかつたかもしれない。だから私は,千数百万人に迷惑をかけたという事実に対しては「ごめいわくをかけました」と言つた。「ごめいわく」という言葉は婦人のスカートに水がかかつたときに使うのだそうだが,そういう迷惑という感じを,そういうことをお互にみんなブチまけあつた。

 私は出発前の記者懇談会をやつたとき,「すべては日中国交正常化の一点にしぼつている」と言つたが,こういつたものを先方は非常によく理解してくれたので,このような結果を得たものと思う。しかし,問題はこれからだと思う。有終の美をなさなければならない。これからはお互が一つづつ,具体的に,現実に即して理解を深め,解決していくということであつて,その大きなスタート,テープが切られた,とこのように理解している。

 (問) 日中共同声明の第4項に「できるだけ速やかに大使を交換する」とあるが,大体いつごろをメドにしているか。また,平和友好条約締結の具体的スケジュールをどう考えているか。

 (総理) 大使の交換はいつでもできる。私は「北京はいい所だから,大使館の敷地をひとつ選択しておいて下さい。」と言つておいた。できればゴルフのハーフくらいできる広大な土地が得られれば,北京駐在の外交官は喜ぶでしよう,というようなことであつた。向うは「いつでも提供いたしますよ」と言うぐらいだつたが,こちらですぐ提供できるかどうか,という問題もある。これは外務省の方で連絡をするから,いつまでということではなくても,可及的速やかに,できるだけ早く,とこう考えている。

 共同声明という形で日中国交の正常化は実現したのだが,これからの長い将来を展望しながら,両国が一つの条約形式のものを作るということは,必要であれば当然考えることである。内容をどうするかは,これから相談しながらきめればいいのであつて“いつまでに”という期限のある問題ではない。条約形式によつて復交を行なうというのであれば,非常に急がれるわけだが,そうではなく国交正常化は共同声明をもつてすでにスタートした。あとは内容を整備するわけで,その内容の一つであると理解されたい。

 (問) 初代の北京駐在の日本大使の人選についてうかがいたい。現役の外交官か,外交官出身あるいは民間とか国会議員などいろいろあると思うが,どういう考えを持つているか。

 (総理) まだ外務大臣と話をしていないが,向うがどんな人を出すか。それによつてこちらも「こういう人がいいと思います」とザックバランに話しあえばいいことだと思います。一方的に発令するよりも,日中が新しくスタートするという重要な時機であることを考えて,最も適当な人ということだろう。冗談に「ゴルフ場のハーフもあれば,お互に来てもいいな。」と私が言つたら,大平外務大臣は「そうね」といいながら,私をやるような気持もなかつたようだ。(笑い)その程度の話合いであつて,まだまつたく進んでいない。だが,事務的に考える人事ではないと思う。外務大臣は十分考えてくれると思う。

 (問) 総理は「どたん場までお互に主張しあえばダメだつたかもしれない」と言われたが,会談はどのように行なわれたのか。例えば台湾問題,日台条約問題などについて,今度の交渉中互にハラをぶちまけるという場があつたのか。

 (総理) 国際情勢の推移はじめ,なぜ今日まで復交に時間がかかつたか,という問題に対して「政治体制が違つておりました」という具合に,非常に歯に衣を着せないで,ザックバランに話合つた。すべてが白紙の状態で,なんでも実状は述べなければいかんし,理解は求めなければいけない。この会談がネゴシェーションであつて,一つの目的が達成されればいいんだという感じではなく,この両国の首脳会談というものが将来の長きにわたるものになるのだから,といろいろなことを述べた。「日本が中国の復交に対していろいろ考えているのは,本当に中国のように人間の多い大国が,日本の内政に対していろいろなことを行なつたら困るんです。革命の輸出などが出来ると思いますか。」ということで,その辺の事情についても突つこんだ話をやつた。しかし,そういう考え方が自民党の中にも,国民の中にもある。そういうことに対して意見の交換をやつたわけで「日米安保条約は忽然としてできたものではありません。朝鮮半島の38度線で,北鮮に対して応援があつたから一つの事件になつたのではありませんか。その前提は中ソ同盟友好条約です。」という問題まで全部互に討議しあつた。

 (問) その討議によつて,中国がこれまで日本に対して持つていた誤解が払拭されたと考えられるか。

 (総理) 当然そうとらなければならない。日米安保条約というものがあり,その米国が日本を侵略するようなことはない。侵略するつもりなら,戦後日本全部をアメリカの一州とすることもできる状態だつたにもかかわらず,そういうことはしなかつたわけだ。すると先方はベトナムがあるじやないか,とそういう問題まで全部率直な意見の交換を行なつた。

 日本の軍国主義などというが,憲法を改正しないで軍国主義はない。憲法を改正できる状態にありますか。参集両院の3分の2の多数の発議を必要とする。この手続をふまなければ革命を起さなければならない。日本の現状は革命を容認するような日本ではない。そういう問題や,国際情勢と日本,日本が考えていること,また中国側が日本に対して抱いていることなどについて,隔意ない意見の交換を行なつたので,先方は日本が軍国主義だとか,軍国主義に走るとは思わない。漁船が拿捕されても,日本は力でやれないという事実は,非常に説得しうる,理解し得る現実である。そういう問題について積極的に理解を求めたし,理解が得られた。私は全く素直に,この共同声明ができたということで,日中間で十分理解が行なわれたというふうに理解している。

 (問) 共同声明の第7項に「日中国交正常化は第三国に対するものではない」とあるが,国内ではいろいろな意見がある。この項の意味並びにできた経緯について説明願いたい。

 (総理) はじめから絶対に大国主義にはならないということだ。「日本と中国が手を結べば人口の上でも8億乃至9億はなる。地球上に存在する人間の4分の1を占め,非常に強大になる。」という意見も一部にあるが,そういうことは全く考えられない。「お互に内政不干渉,5原則を金科玉条として,世界平和のため,アジアの平和のため,両国の友好親善を続けましよう。」ということであつて,第三国に脅威を与えるものでは全くない,ということを大前提とした。

 大国主義とかそういう一つの目的を持つているのではない。日中というものが,日米に対して直接影響があるか。そんな影響はない。それは当然そうでなければならない。そのほかいろいろ考えられるが,他に脅威を与えるものではない,ということを前提にしている。

 (問) 中国は日本に対し,とくに民間人に対し,貿易4原則を要求していたが,共同声明によつてその4原則は中国と関係のない国にとつてなくなつたと解してよいか。

 (総理) 貿易問題は議題としてはあまり討議されなかつた。これは民間人がどんどん(中国に)行つているし,いま指摘されたような点は,現実問題として解決されているので,特別な検討はしなかつた。台湾に投資しているために問題になつていた三菱,住友,三井が訪中している。三菱については,三菱の代表3人が中国へ,三菱商事の社長が台北へ,ということもあつた。だから,このような問題は,先程も述べたように「日中の国交の正常化を契機として,この中で,大きな流れになるようなことをお互に考えましよう。あまりこまかい,内政干渉的なことはやらないことにしましよう。内政不干渉の大原則を前提にしましよう。」と言つているのだから,自らそういう問題は解決されると思う。しかし,御指摘の点は,特に議題として検討してこなかつたが,それは5原則,互恵平等で行こうということだから,あまり懸念することはないと思う。

 (問) 北京でいまさらながら復交3原則に対する先方のきびしさを思いしらされたと思うが,2番目の台湾の帰属と,3番目の日台条約の破棄については,共同声明並びに外務大臣談話で極めて明確な態度を打ち出している。しかし,(台湾との)貿易,経済,人事の交流について言及されていないが,どういう話があつたのか。

 (総理) 台湾には年間10数万の人の交流があり,現に(日本人)約3,900人が(台湾に)住んでいる。勿論航空機は往復している。こういう現実的な問題に対して理解を示されたい,と述べたら,ちやんと理解を示してくれた。そういうことであつて,3原則については佐藤内閣時代国会において当時の福田外務大臣が答弁し,私が組閣直後各野党の質問に対し閣議の決定をもつて答えている―これは全部前内閣で答えたものと同じものをそのまま述べたわけだが―ということで,この問題に対しては日中両国の外務大臣の間にも十分意見の交換が行なわれたはずであり,また両国は十分理解し合意に達した。十分理解しなければ,とても・・・・・・そこが日中共同声明のヤマだろうと皆さんは指摘していたが・・・・・・それが共同声明に書いてないので「ほう,なかつたのかな」と思つたら,外務大臣があとから公式な記者会見で述べたわけだ。また,その他の問題も十分ふれてある。これは私と外務大臣とが一緒に首脳会談をやつたときにも,外務大臣から具体的に,こまかくふれている。

 (問) いまの質問に関連して,台湾問題に対する日本政府の態度は共同声明の形になつて出たわけだが,これは当初の予定どおりと解してよいか。当初の日本の台湾に対する考え方が,ほぼ全面的に認められたと解してよろしいか。

 (総理) それしかないのだ。台湾問題に対するお互の理解の度合は十分なのだ。この問題について,お互に食い違う判断をしていたのでは,日中の国交正常化が行なわれたというだけで,その後ガタガタガタガタしてしまう。そんなことにはならないのだ。日中両国間で,言いづらい話でもちやんと話してある。そういう問題に対して日本側の考え方も十分述べてあるし,中国側も・・・・・・

 (問) 日中間で,台湾についての理解が深まつたということになると,安保条約の極東の範囲から台湾を除外する措置をとるのか。

 (総理) 私がいつも言つているとおり,事態が変つたのだ。

 (問) 事態が変つたというなら,安保条約が作られた時代と,いまの時代とでは完全に変つたわけだ。日中国交正常化と,中国封じこめ,冷戦体制の一つの産物である現在の日米安保条約は矛盾したものと私は思うがどうか。現在の安保条約を近い将来改定すべきだと考えておられるか。

 (総理) (安保条約は)発動されないのだから・・・・・・中国は武力を行使しない。台湾も本土に対して武力行使をしないという前提に米国は立つている。しかもその後ニクソン大統領は北京を訪問している。日中間で国交が計られたようにはなつてはいないが,これからいろいろな交渉を進めるだろう。つまり,(米中間で)話合いができないという状態ではなくなつている。だから,そういう事態は避けられるし,起りうるはずはないと見ている。

 (問) そういう事態が起りえないとすれば,現在の安保条約は意味がなくなつているではないか。

 (総理) そこまで考えなくてもいいだろう。そこまで考えると,法匪といわれているように,すべてがピシーツと合つていないと,気がすまんような・・・・・・世の中はそんなものじやないですよ(笑い)・・・・・・これは大学の入学試験じやないんだから(笑い)・・・・・・そんなことをいうと,今度日中間で国交の正常化が行なわれたから,中国側で中ソ同盟を破棄したらどうか,と言うことと同じことになるわけだ。だから第三国に対するものではない,とちやんと書いてあるわけで,そんなに・・・・・・日米安保条約の台湾条項を学問的に論文でも書くなら別だが,中国はそれでいいと言つているのですよ(笑い)日中間の話合いでだ。

 (問) 中国はそれでいいと言つたのか。

 (総理) そうでなければ共同声明はできなかつたじやないですか(笑い),そこが外務大臣が一緒に行かなければならんとこだつたのだ。(笑い)

 (問) 総理はハワイ会談で日米安保条約を堅持するという方針を打ち出したが,4次防という前内閣の宿題をそのままにして北京に行かれた。これについての決定が残されているが。

 (総理) まだ4次防は正式に決定していない。いろいろ財務当局と防衛庁その他関係各省で作業を進めているという段階だ。夏の終り,秋のはじめにはきめなければならない,と前内閣時代からいわれていたのが,今日に至つているわけで,いつまでも延ばせるものではないと思う。もうじき,段々とわれわれのところへ上つてくるような状態になると思う。

 (問) 中国側はそれに興味を示し,かなりフランクに,突つこんだ質問をしたと思うが。

 (総理) そういう質問はあまりなかつた。

 (問) こちらからあえて説明しなかつたか。

 (総理) とにかく,侵略できないような体制になつている。憲法の定めがある。だから今の状態では,適法にやる以外にない。適法にやるとすれば,衆参両院の3分の2の規定があるから,それはできない。革命が起るか。革命が起る素地はない。自民党が革命を起して憲法を改正するような気はサラサラない。ということで,これは非常にはつきりしたことだ。あとは国民総生産に対して1%を超えないということ,また海外援助と大体匹敵するようなもの,ということだし,しかも各国の国際比較―国民総生産に対する軍事力の比較―がある。また,日本は憲法でこれだけ枠をはめられており,しかも日本が持つているような装備で侵略などは一切しない。侵略は原則的にしないし,できない体制にある。だから,実態は本当に専守防衛であつて,日本の予算が少しふえるということで,脅威を与える戦力ではない。そんなことは先方にちやんと話してある。いま国際粉争がどこかで起つても,日本の自衛艦が出ていつて解決するような状態にはない。

 また,どこの国と比べてみても,専守防衛,独立国として持たなければならない自衛力の限界内のものだ。そういう意味で(先方は)十分理解があると思う。日本の軍隊がかつての軍隊と憲法上全くちがうということが理解されれば,誰に説明してもわかつてもらえることだ。実際,海外の紛争解決に出かけていつて当ることができないのだ。漁船が1隻拿捕されても,タンカーが1隻通れなくなつても,こつちから軍艦を持つていつて,解決できるような状態には一切なつていない。というようなことをマスコミがもつと書いてくれると,もつと国益が守れると思うのだが・・・・・・これは本当だ・・・・・・実際において・・・・・・。

 第一,独立国で自衛のための軍隊はいらんと言つても,そんなことはできないし,そんな国はない・・・・・・なくはないかな(笑い)・・・・・・専門家に探させなければ見つからないほどのものであつて,そんな国は存在しないのだ。日本がいろんな非難を受けるのは,かつて精鋭な軍隊を持つて海外へ出て行つた,人に迷惑をかけた,という歴史があるからだ。そのため日本の自衛力イコール戦力とみられるのだが,日本政府も日本国民も全体が海外に兵隊を出すという気持は全くない。しかも政府は憲法や法律でしばられている。それを改廃する意思もないし,やろうと思つてもできない態勢にある。そういうことが理解されているのだ。

 (問) 野党の中には,この共同声明は講和条約と同じ効力を持つている。だから,国会の承認案件として,国会にかけるべきだという意見があるが,これについての総理の御意見をうかがいたい。

 (総理) 私は専門家ではないが,これは内容的に条約ということであれば,憲法の定めによつて国会の批准案件である。しかし,普通外交案件は憲法の定めで政府が処理できうるようになつている。で,法制局,外務省,政府全体が相談の上,日中国交正常化はこの共同声明をもつて国交の正常化は実現すると(共同声明に)書いてある。だからもう昨日発効したわけだ。それで,きのうの夜の上海の招宴には三軍の代表が出席している。きのうの北京空港も,きようの上海空港も,外国の大公使が全部出席している。というのは,日中復交が行なわれたからだ。であるから,今度の声明をもつて日中国交の正常化を行なつたのは適法である,ということだ。適法であるし,皆さんは新聞,テレビ,ラジオで国民に周知,徹底せしめていただいているが,制度の上で国会を通じ国民の皆さんに御報告申し上げる。また野党との党首会談も当然行なわれると思うし,私も各党の代表に御報告しなければならないと思つている。それとは別に,国会を通じて質問に答え,真実が明らかになるということは望ましいし,必要だと思う。だから相談しながら,よい時機をみて国会で御報告申しあげる。

 国会で批准しなければ,その日まで日中の復交は行なわれない,というふうには全く考えていない。適法な処置を行なつて,日中国交の正常化は昨日行なわれた,ということで御理解いただきたい。新聞にも,「日中復交なる」と書いてあるし(笑い),違法なものをそう書くわけがないでしよう。(大笑い)・・・・・・そこらが常識だ。

 (問) 日本のアジア政策は変るのか。またアジア諸国の中には懸念があるようだが,特使を出す考えはないか。

 (総理) 日本の軍事力はみみつちいもので,出ていく気もないが,経済力はたしかに評価されている。だから,そういう日本と7億,8億の大国である隣国中国との間に,国交もない,話合いもない,野党のパイプがなければ話もできない,というようなことこそ,アジアの不安定の最大のものだと思う。朝鮮事件が起つたときでも,日中のパイプが通じておれば,朝鮮半島に騒擾が起つては困るという話合いが出来たはずだ。とにかく日中国交の不正常な状態自体がアジアの不安定要因の最大のものだつたと私は思う。そうでなければ,共同声明の中で「アジアのために,世界の平和に貢献したい」など大きなことは言えないはずだ。そういう意味で,日中の国交が開かれたことにより,アジアの平和はその方向に大きく踏み出した,と私は見ている。

 日本と中国がこれだけのことをしたということを,日本は隣国や東南アジアの諸国に説明する。また,中国は中国と国交のある国に対して説明する,ということは当然行なわれるべきだと思う。

 米国へは私が行つてきたし,韓国にも外務大臣が行つてきた。これからまた,外務大臣の日程もあろうし,特派大使を出すとか,いろんな問題がある。台湾に対しては,この間自民党副総裁の椎名悦三郎氏をわずらわした。ということで,必要最少限のことはしている。しかし,これからも日中の復交をどうするかという問題については,できるだけ親切に御連絡し,協力してもらうということが必要だろう。まだ誰をどうするという問題はきまつていない。

 (問) 日中国交正常化の実現により,あとに残された外交案件の中で最大のものは,日ソ平和条約交渉だと思う。この交渉は本年中にやるという約束がすでにできているがいつ頃,どういう方針で始められるのか。また,この交渉には日中交渉と同様,総理自身が直接話合いに乗り出すお考えがあるのか。

 (総理) 日中問題が最大の懸案だつたことは御指摘のとおりだ。残つているのは固有の領土問題だ。領土は外交上最大の問題で,日ソ間も例外ではない。

 鳩山総理が訪ソされたとき,2つの島だけならば国論が納得しがたいということだつたが,すでに14年の才月が過ぎている。したがつて4つの島の返還ということが,日ソ平和条約の最大のポイントだと思う。

 この問題について,グロムイコ外相が訪日の折,平和条約の下交渉を秋になつたらやろう,という申し入れを受けているわけだ。その後も,場合によつては,もつと合理的な会談を行なつてもよいのではないか,という考え方もあるようだ。

 二兎を追う者は一兎をも得ずで,いま日中がようやくスタートしたばかりで,まだ大変な問題が残つているが,これからは日ソ問題だ。はじめは9月中くらいには接触を始めたいということで外務省当局は接触していると思う。だから外務大臣と相談しながら新しく取り組みたいと思う。

 (問) 共同声明の第5項に,中国側が日中両国友好のために戦争賠償を放棄するとうたわれているが,これにこたえて日本側が中国の国内建設に今後協力するというような腹づもりはどうか。

 (総理) 全く素直に「賠償は放棄いたします,戦争賠償の請求はこれを放棄いたします。」ということであつて,ネゴシェーションをやつたり,これをやめてくれればこれを出す,というようなことではない。東洋人の最も重要視する基本的姿勢,精神ということからスタートしなければいけない。

 両国には長い歴史がある。日本が戦争したということで大変めいわくをかけたが,中国が日本を攻めてきたことはないかと研究してみたら,実際にあつた。3万人くらいが南シナ海から押し渡つてきた。しかし台風にあつて(笑い)日本に至らず,本土に帰つたのは4,500人であつた,とこう書物は教えている。(笑い)また,クビライの元寇というのがあつた。日中間にはいろいろなことがあつた。過去というよりも,みんな新しいスタートに一点をしぼろう,ということだつた。