データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 田中総理大臣とリチャード・ニクソン大統領との間の共同声明

[場所] ワシントン
[年月日] 1973年8月1日
[出典] 外交青書18号,26−30頁.
[備考] 
[全文]

1 田中総理大臣とニクソン大統領は,7月31日及び8月1日の両日ワシントンにおいて会談し,共通の関心を有する幾多の諸問題について包括的かつ充実した検討を行なつた。

2 暖かさと信頼の雰囲気の中で行なわれた両首脳の討議は,その基調と内容において日米両国間の関係の広がりと緊密さとを反映するものであつた。今回の会議の主な焦点は,日米両国が分かちあう多くの共通の目標におかれ,また,両国がその友好関係の新時代に共に対処してゆくとの決意におかれた。両者は日米両国が各々世界の平和と繁栄のために果している重要な役割に高い価値を置くこと,並びに世界中において右の共通目的のためあらゆる可能な分野で協力してゆくことが極めて望ましいことを強調した。

3 総理大臣と大統領は,個人の自由及び開放された社会という共通の政治理念並びに相互依存感に基盤をおく日米間の友好協力関係が永続的性格をもつていることを確認した。両者は,両国間の関係がその世界的側面の重要性を増しつつあり,全世界における平和的関係への動きに有意義な貢献を行なつていることに特に留意した。

4 総理大臣と大統領は,1972年の9月のハワイにおける両者の会談以来共通の関心を有する諸問題につき各層で行なわれてきた間断なき対話に対し満足の意を表明すると共に,国際情勢の進展を検討した。両者は,米国とソ連邦との間の対話の進行,中部ヨーロッパにおける相互兵力及び武器削減に関する来るべき交渉,全欧安全保障協力会議,中華人民共和国の国際社会への復帰,さらには,インドシナ和平のためのパリ協定の署名によつて示される緊張緩和への世界的な傾向を討議した。両者は,右の傾向が全世界において紛争の平和的解決をもたらすに至ることを希望した。

5 総理大臣と大統領は,国際政治の分野において共通の関心を有する諸問題につき,不断の協議を行なう必要があることに合意した。両者は,戦略兵器制限交渉(SALT)関係諸合意及び核戦争防止に関する米ソ協定を含む軍備管理及び紛争の回避の分野でなされた前進に対し満足の意を表明した。

6 総理大臣と大統領は,日本と中華人民共和国との間の国交正常化及び米国と中華人民共和国とのより正常な関係への動きを満足の意をもつて留意した。両者は,パリ協定の忠実な履行によりインドシナにおいて安定的,かつ,永続的な平和が確立されるようにとの強い希望を表明した。両者は,インドシナの復興を援助する決意を再確認した。両者は,朝鮮半島における新たな発展を歓迎し,両国政府がこの地域における平和と安定の促進のために貢献する用意があることを表明した。両者は,アジアにおける地域的協力を,アジア全域にわたる永続的平和の確保に貢献する重要な要素であるとして,引き続き助長してゆくことを約した。

7 大統領は,先進工業民主主義諸国間の将来の協力の指針となる諸原則の宣言が望ましいことを指摘した。総理大臣はこれに対する積極的な関心を表明した。総理大臣と大統領は,関係国すべてにより受け入れられるような宣言を作成するための準備が進行するにともない,日米両国がこの問題につき密接に協議することに合意した。

8 総理大臣と大統領は,国際関係の既存の枠組みがアジアにおける最近の緊張緩和への傾向の基盤となつてきていることを認識し,日米相互協力及び安全保障条約のもとにおける両国間の緊密な協力関係の継続がアジアの安定の維持のための重要な要素であることを再確認した。大統領は,右地域において適当な水準の抑止力を維持するとの米国の意向を確認した。両首脳は,同条約の円滑,かつ,効果的な実施を期するための継続的努力に満足の意をもつて留意し,日本における米軍施設・区域の整理統合のためさらに措置がとられることが望ましいことに意見の一致をみた。

9 総理大臣と大統領は,人類の歴史上最大の規模に達する大洋を越えての二国間通商が日米両国民の生活を大いに豊かにしているとの認識に立つて,この貿易が引き続き拡大し,世界経済全体の拡大及び繁栄並びに日米両国間の全般的関係に貢献し続けるようにしてゆくことを約した。両者は,7月に東京で開かれた日米貿易経済合同委員会の会合における討議で,貿易及び投資の分野において日本がとつた措置―これに対して大統領は再び米国の感謝の意を表明した―についての討議,両国間の貿易不均衡の著しい改善及びこの改善の動きを持続させるための諸施策を追求するとの両国政府の意図についての討議,両国間の投資の促進についての討議並びに農産物を含む必需物資を日本に供給するために最善の努力をつくすとの米国の意図―大統領はこれを再確認した―についての討議を満足の意をもつて検討した。

 総理大臣と大統領は,最近の経済の発展を基礎として日米両国がその経済関係を進める上で新しい展望を期待しうるとの右会議の了解を確認した。

10 総理大臣と大統領は,貿易及び通貨の分野における多数国間交渉が成功裡に完了することを両国が重要視していることを再確認した。両者は,ますます相互依存性を強めている世界経済の要請に呼応するように貿易と投資の面で開放され,かつ,衡平な世界を達成し,改革された国際通貨制度を達成する目的を支持した。両者は,新しい多角的通商交渉を開始する閣僚会議が9月に東京において開催されることにつき,ともに満足の意を表明した。両者は,9月後半のナイロビにおける国際通貨基金の年次総会において,通貨改革の諸原則につきできるだけ広範な合意に達するよう努めるとの両国政府の固い意図を強調した。これらのいずれの事業においても両者は,早期,かつ,建設的な結果が確保されるよう世界の他の諸国と協調して,共同の努力を行なうことを約した。

11 総理大臣と大統領は,日米両国民の急速に拡大する需要を満たすため,エネルギー資源の安定した供給を確保するための努力をひきつづき調整してゆくことに合意した。両者は,この関連で,産油国との間に公正,かつ,調和のとれた関係を求め,経済協力開発機構の枠内において緊急時における石油融通措置を案出する可能性を検討し,また,エネルギー資源の探査と採掘及び新エネルギー源の研究と開発のための協力範囲を大巾に拡大してゆくとの共通の意図を表明した。

12 総理大臣と大統領は,濃縮ウランの安定供給を確保するため両国政府が,所要の研究と開発についての協力を含め,緊密に協力することの重要性を確認した。両者は,両国政府が,右の目的のために,日米の合弁事業を満足のいく形で実現するよう最善の努力をはらうことに合意した。この関連で,大統領は,米国政府が一団の米国企業に対し,日本が参加する可能性のある米国内のウラン濃縮工場の建設に関連する経済的,法律的及び技術的諸要素について共同調査を行なうため日本の民間当事者と契約を結ぶことを認可した旨を明らかにした。

13 総理大臣と大統領は,両国関係を強化するために,より良い意思疎通及び相互理解のための諸計画の拡充が枢要であることを認識した。総理大臣は,国際交流基金の活動が米国内において暖かく迎えられていることに留意し,日本国政府が,米国のいくつかの大学の日本研究に対して講座の寄付を含む研究機関に対する支持のために総額1千万ドルの資金を国際交流基金を通じて贈与する旨明らかにした。大統領は,過去において多大の成果をあげてきた米国の文化,教育面の努力に対する援助を拡大する意向を表明し,日米間の文化,教育交流を強化するためにガリオア口座に残つている資金を支出するよう近い将来議会に要請するとの意図を表明した。

14 総理大臣と大統領は,環境保護の分野における日米間の協力が増大していることに満足の意を表明した。両者は,両国が下水処理,光化学大気汚染に係る問題を含む大気・水質汚染,その他の環境問題に一層効果的に対処することを可能とするために現在進行中の両国間の諸協力計画を高く評価した。両者は,かかる諸協力計画が両国の環境保護及び汚染対策の立案に資するものであることを確認した。

15 総理大臣と大統領は,両国間で過去10年間に進められて来た医学,科学及び技術上の協力計画の業績に満足の意をもつて留意した。両者は,今後10年間のより広範囲な要請に鑑み,これらの分野における協力関係を総合的に再検討することに合意した。

16 総理大臣と大統領は,国際連合が国際協力の促進のために重要な貢献を行なつていること及び集団的協議のための効果的な場であることを認識し,日米両国が十分協力して同機構を建設的な方向で発展させるため努力することに合意した。

 大統領は安全保障理事会が国際の平和と安全の維持という国際連合憲章に基く主要な責務を果すためには,その国力と影響力が世界における諸問題において極めて重要な日本が同理事会に永続的に代表されることを確保するための方途を見出すべきであるとの意見を表明した。総理大臣はこの表明に謝意を表明した。

17 大統領は,天皇,皇后両陛下の御訪米に対する以前よりの招待を再確認し,御訪米が近い将来日米双方にとつて都合の良い時期に実現することを希望した。

 総理大臣は,右の招待に対して深甚の謝意を表するとともに,ニクソン大統領夫妻の訪日に対する日本国政府よりの招待を伝達した。大統領は右招待を受諾するにあたり,これにより象徴される米国に対する暖かい感情に対し心からの謝意を表明した。大統領の訪日は,外交経路を通じてとり進められることとなるが,1974年の年末以前の日米双方の都合の良い時期に実現することが希望される。

18 総理大臣には大平正芳外務大臣,安川壮駐米日本国大使及び鶴見清彦外務審議官が同行した。米側からは,ウィリアム・P・ロジャーズ国務長官,ヘンリー・A・キッシンジャー国家安全保障担当大統領補佐官及びロバート・S・インガソル駐日米国大使が討議に参加した。