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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 川口外務大臣演説「アフガニスタン、イラン・イスラム共和国訪問を前に」

[場所] 東京(日本外国特派員協会)
[年月日] 2002年4月25日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

(はじめに)

 ご列席の皆様、今晩は。

 連休の期間中に、私はアフガニスタンを訪問いたします。国際社会は、世界各地で繰り返される耐え難い悲劇に目を奪われ、アフガニスタンへ差し伸べた援助の手を緩めてはなりません。1989年ソ連軍の撤退後に犯した過ちを二度と繰り返してはならないのです。

 アフガニスタンでは、カルザイ暫定政権議長及びその他の暫定政権指導者と会談を行い、ボン合意及びアフガニスタンの復興へ向けた日本のコミットメントをさらに具体化する方策について、意見交換を行う予定です。私は、また、何が必要で、如何なる障害があるのかを自らの目で、耳で確認するために、現地で実際に援助活動に従事している人々とも会い意見交換するつもりです。死活的に重要なこの時期に、アフガニスタンのより明るい未来のためのビジョンをご説明したいと思います。

(アフガニスタン復興支援国際会議)

 皆さんもよくご存知の通り、日本政府は本年1月21、22日の両日、東京でアフガニスタン復興支援国際会議を開催し、共同議長を務めました。

 カルザイ議長の要請を受けて、日本及び参加各国は、アフガニスタン復興に対するコミットメントを全世界に表明しました。その一環として、日本政府は、アフガニスタンの復興努力に対する援助として、今後2年6ヶ月間に、最大5億米ドルの資金を拠出することを発表しました。

 国際社会は、アフガニスタンの平和と発展に主たる責任を負うのはアフガニスタンの人々自身であることを認識しつつ、その努力を支援するために、45億米ドルを超える援助を行うことを約束しました。

(アフガニスタンにおける平和の定着)

 国際社会全体が一つの目標を達成するために力を結集し、可能な貢献を集積するよう促されているアフガニスタンの復興支援は、人類史上初めての試みです。ここでいう国際社会とは、政府のみならず、国際機関、非政府組織、そしてボランティア活動を行う個々人を指します。

 我々の挑戦は、単に経済の復興にとどまらず、男性も女性も子供達も、自らの生活に満足し、自由で民主的な、そして自らの文化的遺産を誇りに思う社会を構築することです。そういった社会を構築するためには、従来までの意味での復興だけでは不十分です。必要なことは、「平和の定着」です。そして平和の定着とは、和平プロセス、国内の治安、そして復興・人道支援の3つの要素から構成されるべきであります。「平和の定着」は、三脚のように、どの要素一つが欠けても存立できないものです。

 それでは、平和の三脚の1脚、1脚についてご説明しましょう。

(緊急ロヤ・ジェルガ)

 復興は、和平プロセスの円滑な進展により、その進展が予測されます。次の主要な章は、緊急ロヤ・ジェルガです。日本の緊急ロヤ・ジェルガ開催支援は、私の三脚の初めの一脚です。

 6月中旬に緊急ロヤ・ジェルガが開催され、アフガニスタンの全土から参加する1500名が、国の元首と、暫定政権を引き継ぐ移行政権のメンバーを選出します。

 緊急ロヤ・ジェルガの成功は、アフガニスタンに民主主義を確立し、永続的な平和国家を樹立するためには不可欠です。

 必ず成功させるという強い意志に触発され、日本政府は、地方選挙監視機材の調達と緊急ロヤ・ジェルガ委員会メンバーと国際監視団の移動のために270万米ドルの資金提供を行うことを決定しました。緊急ロヤ・ジェルガ・プロセスの準備のために専門家の派遣も行っています。

 さらに、日本は緊急ロヤ・ジェルガの模様をアフガニスタン全土でテレビ放送を行うための技術支援と機材提供も行います。この緊急支援と併せて、より長期の支援としてテレビ放送を行うための機材と、アフガニスタンの放送施設の改修のための技術支援を行うことも計画しています。アフガニスタンに芽生えた民主主義を持続させるためには自由な放送メディアの存在は不可欠であると考えます。

(国内の治安)

 私の「三脚」の二本目の脚は、国内の治安です。国内の治安とは、復興活動における緊急に必要な先行条件であります。

 まず、文民警察の改革のための支援を拡大する可能性を検討しております。日本の支援としては、ワイヤレス通信機器や車両の供与、施設の復興が考えられます。

 また、およそ70万人にのぼる元兵士の復員の重要性にもご注目いただきたいと思います。我々は、こうした人々を社会の生産的な一員にしなければなりません。わが国は、代わりとなる雇用機会――暴力に代わる、生活のための経済的手段――の提供を、率先して行っていきます。

 ケシの栽培は、長年にわたって大きな収入源でした。しかし、これは国際的な薬物問題の元凶であるだけでなく、アフガニスタンの社会・政治の安定への重大な脅威でもあります。我々は、アフガニスタン暫定政権の表明した薬物問題に取り組む強い決意に勇気づけられており、先ごろの同政権によるケシ栽培禁止の決定を歓迎しております。ケシを撲滅し、アフガニスタンの麻薬対策能力を強化するための適切なプロジェクトの開発と特定を、日本政府は積極的に検討します。

 アフガニスタン国土には800平方キロを超える範囲にわたって、多数の地雷と不発弾が散っており、これによって多大な被害を被り、死傷する人の数は、毎月150〜300人にのぼっています。このように、地雷の撤去は緊急の必要課題であり、まさに戦争から平和へというアフガニスタンの移行を示す最大の象徴の一つになります。日本は、19百万米ドルの拠出を決定しています。我々は、国連開発計画との協力を通じ、現地のNGOに対し、100台以上のトラック、124台の四輪駆動車、およそ2000台の地雷探知機を供与いたします。私のアフガニスタン滞在中に、こうした機材を実際に使用して地雷撤去作業が行われているのを、是非見たいと思っています。

(復興・人道支援)

 平和の定着は、私の三脚の第3の脚にあたる、復興・人道支援なくしては、完成し得ません。

 アフガニスタンの人々が最終的に自らの潜在能力を実現していくためには、結局のところ、地域コミュニティを再建し、人材を育成し、さらにインフラを整備するところまで支援を行う必要があります。ジェンダー問題についての配慮も、そうした支援の各段階で不可欠です。あまりにも長い間アフガニスタンの女性達は見捨てられてきました。

 まず第1に、アフガニスタンの人々を外部からの支援を待つだけの状況に置くべきではありません。アフガニスタンの人々は、自立して自国の復興に参加すべきです。自力で生き抜き、次の段階へ進むことできる{前5文字ママ}程度の「小さな購買力」を付与するために、REAPとして知られる「アフガニスタンの復旧及び雇用にかかるプログラム」を日本は推進します。このプログラムは、カブール復興のための公共事業により一時的雇用を創出し、また非熟練労働者向けに2万人もの雇用の創出も見込まれています。日本は国際連合開発計画(UNDP)と協力してこのプログラムを推進しています。先週、ニューヨークタイムズ紙のカブール特派員は、REAPを報じ、アフガニスタンの人々が「カブールのあちらこちらで」レンガを集めて学校や道路を再建する姿に言及しました。

 明治維新と戦後復興の経験から、日本人は教育こそが開発の基礎であると信じています。日本は「Back to School」計画の支援を大幅に拡大し、必要な資金の約半分を負担しています。新学期である3月23日から、15百万人のアフガニスタンの子供たちが学校に通っています。多くの子供達にとっては、今年が学校に通う初めての年です。学習の機会というこの素晴らしい贈り物は、アフガニスタン暫定政権、国連児童基金(UNICEF)、NGOと日本政府が協力することによって実現しました。

 つい先日アミン教育大臣を日本に招待しました。大臣は私に、壊れた学校を緊急に再建し教科書をつくる必要があると説明されました。我々は、学校施設を修復し、教育専門家を派遣し、また日本で女性教員を育成するプロジェクトを計画しています。大臣のご招待で、私は何が必要とされているかをこの目で見るために、カブール内の学校を訪問することにしています。

 さらに医療面では、はしかとポリオのワクチンや注射器、コールド・チェーン機材の購入用に6百万米ドルの無償資金援助をユニセフに対して行っています。日本はまた15百万米ドルの緊急無償資金協力を、病院用医療器具および医薬品の調達のために実施しています。我々は今、保健・医療分野の専門家の派遣と研修員の受け入れを準備中です。

 インフラの整備も長期的な観点から重要です。日本政府は、その手始めとして、カブール市民のために公共交通システムの建設の可能性を検討しています。

 政府の力だけで、平和を定着させることはできません。実際、ここに来る前に、私は、アフガニスタンのために熱心に活動している日本のNGO代表者と建設的な会合を持ちました。アフガニスタンの復興のためにそれぞれの視点から活動している日本や諸外国、さらにアフガニスタンのNGOや個人の姿を目にしてきました。NGOは、政府には届けることのできないサービスを提供できるという点で、アフガニスタン復興において重要な役割を担っています。助けを求めるアフガニスタンの人々に緊急人道支援を積極的に提供する多くの日本のNGOを私は大変誇りにしています。私はNGOとの戦略的な関係をより一層強化して参る所存です。

 最後に、これらの援助プロジェクトを推進するために、カブールにおける日本大使館と国際協力事業団(JICA)の機能の強化をはかります。

(イラン)

 アフガニスタンに続いて、私はイランを訪問いたします。イランでの私の課題はまず、国際社会へのイランの建設的な関与、特にアフガニスタンに関する協力のために、我が国がさらに協力する道を探ることです。イランは、アフガニスタン各派にボン合意の成立を促すにあたって鍵となる役割を果たし、アフガニスタン復興支援国際会議の成功を確実なものにしました。イランの寛大な貢献は、ここで言及するに値するものです。イランはパキスタンとともに、何百万人というアフガン難民に逃げ場を提供し、長い間アフガニスタンの人々の支援に携わってきています。

 私は、ハタミ大統領が精力的に推し進めておられるイランの改革に対し、我が国の強い支持を表明いたします。改革は、政治、経済、社会の分野を含む、幅広い分野にわたって進められています。

 また、今回の訪問を機会に、さらに広範な問題について協議したいと考えています。大量破壊兵器の拡散と開発についての国際社会の懸念を協議いたします。また、中東和平問題でのイランの建設的な役割の可能性についても議論します。我々は、麻薬との闘いやアフガニスタンに関するボン・プロセスへの支援といった分野でのイランの積極的な態度を認識しています。他方、イランのいくつかの行動に関しては、国際社会は深刻な懸念を抱いています。私は、率直な対話によって、イランが国際舞台でより積極的な役割を果たすようになり、我が国との二国間関係をさらに促進するための基礎を築くものになることを希望します。イランとの長年にわたる関係を持つ我が国は、イランの協力的姿勢を促進しうる独自の立場にいるのです。

 さらに私は、特に文化交流に力点をおいた、日本とイランとの友好の促進にも努めてまいりたいと思います。我々は、イランの文化を日本国民に紹介する文化行事の開催を歓迎します。文明間の対話における我々の努力の一環として、両国間の知的交流も推進したいと思います。

(結び)

 最後にもう一度、アフガニスタンに戻らせていただきます。アフガニスタンは重大な岐路に立っています。国内の混乱の時期に、アフガニスタンの人々は、家族が殺されたり傷つけられたり、家が破壊されるのを目にし、暮らしや仕事を失いました。現在も、多くのアフガニスタン国民は、飢餓や地震、内戦の余波によるその他の惨事に苦しんでいます。

 アフガニスタン国民が自国の将来の構築にまい進する中で、我が国は世界とともに、救いの手を差しのべたいと思います。

 男性も女性も子どもたちも、自らの可能性を最大限に伸ばし、幸福な暮らしを楽しめる社会−それが、今アフガニスタン国民が望んでいるものです。我々は皆、そのような社会を望んでいます。そして、我々はこの夢を達成できると私は思います。和平プロセス、国内の治安そして復興・人道支援の三脚、即ち「平和の定着」を通じて、この夢は必ず実現できると私は信じております。

ご清聴ありがとうございました。