データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 在日外国人記者クラブにおける大平総理大臣のスピーチ

[場所] 外国人記者クラブ
[年月日] 1979年2月22日
[出典] 大平内閣総理大臣演説集,247ー252頁.
[備考] 
[全文]

 本日は、由緒ある当クラブにお招きをいただきまして大変光栄に存じます。

 皆さまにおかれましては、日本の紹介――日本という国は必ずしも理解するにやさしい国ではないわけでありますが、――日本を母国に報道されるにあたっては、ずい分苦心があるだろうと思います。それにもかかわらず、精力的に見事に仕事をやっていただいていることに対し、この機会に深くお礼を申し上げます。

 いま私どもが生きている時代というのは、大変予測の難しい時代であると思います。意外性の高い事件が世界の各地に起こっているわけであります。インドシナ半島における紛争、イランの革命を的確に予想した人は少なかったであろうと思います。また、去年一年のわが国の為替市場の状況、円高の趨勢をあらかじめ読み取ることができたエコノミストはいなかったのではないかと思います。卑近なところでは、去年ワールドシリーズでヤンキースが優勝を記録したことも予想外であったと思いますし、またヤクルト・スワローズが日本一の座にすわったことも、われわれの予想を超えたことでありました。就中、大平内閣が誕生しましたことも皆さまにとって大変驚きであったろうと思うのであります。

 今日は、主として外交問題、とりわけカレントな外交問題について、日本の立場を簡単にご披露させていただくことに致します。そして、その後にご質問にお答えしてゆきたいと思います。

 まず、インドシナ半島の紛争でありますが、中越国境の状況、カンボジア国内における戦況といったことについて、若干の情報はありますが、適確にこれを把握することは非常に困難であります。日本としては、中越両当事国に対して、平和的に事態を収拾するよう要請している状況であります。そして、第三国、とりわけ強大な影響力を持っているソ連に対し、自重した行動を要請いたしているわけであります。

 日本は、あらゆる地域のあらゆる紛争は、平和的に解決されなければならないという原則を堅持しており、今後もこの方針のもとで、日本として可能なことは行ってゆかなければならないと考えています。そしてできるだけ早く、インドシナ半島全域にわたって事態が平和裡に収拾することを祈念している次第です。

 一方、朝鮮半島におきましては、ご案内のとおり、長く停滞しておりました南北の対話が先頃開かれることになりました。私どもは、両当事者の対話に臨む原則的な立場に相違はあるものの、ともかくも両当事者が対話のテーブルについたということを心から歓迎するものであります。原則的な立場の相違にかかわらず、この対話が実りある成果を収めるように心から願っている次第であります。

 イランにおきましては、新しい政権による事態の収拾が進んでいるように聞いています。日本としては、イランの安定が速やかに回復され、イランの石油輸出が再開されることを願っています。日本は申すまでもなく、イランから二〇パーセント近くの所要石油を輸入している国であります。

 しかし、イランの安定回復、石油輸出の再開に至るまで、日本としては、サウデイ・アラビアその他産油国でいまとられている増産体制が継続されることを期待しております。他方、国際的な協力を維持しながら、われわれの一連のエネルギー政策を精力的にまた着実に実行していかなければならないと考えております。

 対ソ関係についてでありますが、対ソ国交再開以来わが国とソ連との間においては、経済の交流、経済協力の発展、科学技術、スポーツ、芸能、その他諸々の交流がひんぱんに行われております。われわれの予想を超えた進展が各分野において見られ、両国の間の理解が進んでおりますことはご承知のとおりであります。

 ただ一つ、北方領土問題という未解決の問題を抱えているわけであり、この領土の一部に新たな軍事基地化への動きがあるということであります。この未解決の領土問題を平和的に解決し、平和条約を日ソ間で締結するということは、わが国外交の基本的な一つの課題であります。そのような立場から申しまして、一部に伝えられていますように、北方四島の一部が軍事基地化しているというようなことは、残念なことであり、ソ連当局に対して抗議をいたしているところであります。

 しかし、この一つの未解決の問題を除いては、日ソ関係の進展は順調にいっております。最近は、経済委員会の多くの首脳の来日をみており、新たな経済協力問題が相談されているということであります。私どもは、そのようなプロジェクトのフィージビリティ・スタディを十分行い、原則的に協力する姿勢を貫いていきたいと思います。

 次に、六月下旬には東京において七大国によるサミット会議が予定されています。日本は、このサミット会議をホストする立場にあり、メンバー各国の協力をえて、この意義ある会議の成功をどうしても確保しなければならないと考えており、いま準備を続けているところであります。三月には準備会議が東京で開かれ、議題その他が決まってくるでありましょう。

 ちょうど五月には、マニラにおいてUNCTADの総会が開催されると聞いています。例えば、サミット会談が東京において開催されることの関連において、いまは、南北問題という問題がきたるサミットにおいて重大な関心を呼ぶものと期待しております。

 次に、対外経済問題について申し上げたいと思います。今日、世界経済はインフレーションの問題、石油の問題、技術革新の問題、保護主義の抬頭の問題等、多くの問題を抱えて難渋をいたしているわけでありますが、その中でも、さしあたってわれわれが注意しなければならない問題は、経常収支不均衡是正の問題であります。この問題はとりわけ、日本にとり早急に解決を迫られている問題であります。私は、この問題は米国、EC、日本ばかりでなく、世界経済全体の問題として取り上げ、解決を急がなければならない問題であると考えております。

 この問題に対する日本の対応については、皆さまご承知のとおり、われわれは積極的な政策によって内需を拡大する、金利を引き下げる、関税の引き下げを行う、非関税障壁の除去に努める、輸入、特に製品輸入を増進していく、緊急輸入を実行していくというように、諸々の政策を実行してこの問題の解決にあたってまいりましたし、現にあたっているところであります。

 この日本の対応がどのような成果を上げているかということにつきましては、抽象的に申し上げるより数字をして語らしめたいと思います。五十三年度におきまして、われわれは七・四パーセントの内需の拡大をもくろんでおりましたが、八・二パーセントが可能であると考えております。また、就業者の増加は五十五万人と予想しておりましたが、実は六十七万人は確実であるという展望を持っております。

 輸出数量については、五十三年度において横ばいを予想しておりましたが、事実は六パーセントの減少を記録しております。国際収支については、七十八年四〜六月においては月平均十六億ドルの黒字でありましたが、七十九年の一月は三億ドルの黒字に縮小してまいりました。基礎収支は、既に九億ドルの赤字を記録しております。その中でとりわけ、対米収支については、七十八年四〜六月については、九億ドルの黒字でありましたが、七十九年一月には二億ドルに縮小しているということであります。

 対米輸出についてみますと、七十八年四〜六月においては月平均の対米輸出は三二・九パーセントの増加でありましたが、今年一月においてはわずか一パーセントの増加となっています。対米輸入については、七十八年四〜六月においては月平均の対米輸入は九パーセントの増加をみましたが、今年一月には四・五パーセントの増加を記録しております。

 しかしながら、この傾向が着実にノーマルな方向に進むかどうか、これからわれわれは注意していかなければなりませんし、私どものこれまでの努力を増々強化してこの事態に対応しなければならないと考えています。そこで、私は、この問題と関連して、今日は、日本の立場につき三つのことを皆さまに申し上げたいと考えています。

 第一は、日本は世界経済の安定的発展のため、自らの責任を果たすために、一九七九年度においてもき続き高めの経済成長と経常収支黒字幅の縮小に強い決意をもってあたるつもりであります。

 第二は、この問題が経済問題を超えて、大きな政治問題に転化するようなことは絶対に避けなければならないと考えています。高い次元から早急に問題の解決をはかる決意であります。そこで既に関係閣僚レベルでの検討を急がせているところであります。

 第三番目に、日米両国首脳の意志疎通はいかなる場合にでも必要でありますし、かつ高い広い分野で日米両国の建設的な協力関係の強化を一層はからなければならないと考えておりますので、日米双方の都合が許す時期に私自身が訪米いたしたいと考えております。

 日米間の貿易は二国間の貿易としては、米加につぐ史上第二の大きな規模を持っている貿易だと思います。つまり規模が非常に大きいこと、それから経済の構造が異なり、文化の形態もちがっているので、日米間にはたえず問題があることは不思議ではないと思います。この当面緊急に解決を要する問題が片付いたとしても、日米間にはいろいろな問題が出てくることを予想しなければなりませんが、われわれは、相互の信頼と理解に立って、そのような問題を冷静かつ着実に解決してゆかなければならないと考えています。

 また、日米間の問題ばかりではなく、経済国として日本は、世界経済のインフレ克服の問題、世界の諸国民がいま共通に直面している技術革新の問題、石油の問題、あるいは自由貿易体制の維持、そういったことに対しては率先して世界の協力体制に参加し、それなりの責任を果たしてゆく決意であります。そのことを申し上げまして、私のとりあえずのお話しを終わらせていただきます。

 ご静聴ありがとうございました。