データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 1990年4月30日

[場所] 
[年月日] ニューデリー
[出典] ニューデリーにおける海部俊樹内閣総理大臣政策演説「日本と南西アジア―平和と繁栄のための対話と協力関係を求めて」
[備考] 
[全文]

(冒頭挨拶)

 本日,権威あるインド議会において所信を表明する機会を得ましたことは,私の深く喜びとするところであります。

 私は,過去30年間,議会制民主主義の下で国会議員として政治生活を過ごしてまいりました。

 私が貴国を初めて訪れたのは,1969年,列国議会同盟の会議が当地ニュー・デリーで開催された際でありましたが,今回再びインドにおいて私の所信を申し述べるに際し,私は議会人として光栄に思うと共に感慨無量のものがあります。

議員の皆様,

 私は,人が人として尊重される公正で心豊かな世界をつくることを政治信条としてまいりました。すべての人々が,それぞれの豊かな可能性を十分に発揮することができる環境を創造し,それによって人間の幸福を実現することこそ政治の使命であると考えてまいりました。私が,学生の頃,教室においてその人となりを学んだマハトマ・ガンジー翁は,いまから半世紀前,「民主主義の本質とは,あらゆる国民各層の物理的,経済的及び精神的な資源を国民すべての共通の福祉のために活用する芸術であり科学である」と述べています。この言葉は,民主主義が政治制度の問題にとどまらず,ヒューマニズムの社会的,経済的,文化的実現にも不可欠であることを的確に表現したものであります。私は,ガンジー翁の言葉に政治家として強い共感を覚えるとともに,現在の世界の状況に照らして考えるとき,これがいかに的を射た言葉であったかに驚くばかりです。

(世界情勢の変化と新しい国際秩序過去)

議員の皆様,

 「民主主義を通じ自由で豊かな社会の実現を」という私の政治信条は,日本にだけ向けられたものではありません。私は,現在の世界がこの理想の実現を可能にする方向に向かっていることに,強く勇気づけられるのであります。

 私は,今年1月の欧州訪問の際,崩壊したベルリンの壁にただずみ,さらに,改革を進めるポーランド及びハンガリーを訪れましたが,そこで目にしたのは,人間らしい生き方を求める声の高まりによって,社会がこれまでの制約や束縛を大きく乗り越えつつある姿でした。

 今や世界は政治的にも経済的にも急激な変化を遂げています。変化の核心は,自由と民主主義及び市場経済の理念が,世界のより一層多くの人々に受け入れられつつあることであります。これは,人が人として尊重される世の中を実現するための条件が整えられつつあるということであります。また,これにより,対話と協調を通ずる新しい国際秩序を模索していこうという考え方が優勢になりつつあることであります。

 何よりも,これまで一党支配,統制経済を固守してきた諸国が,大胆な自己変革に取り組み始めました。ソ連は,レーニンの共産革命以来70年余の歳月を経た今日,共産党独裁の放棄と市場経済の導入への道を歩みだしました。東欧諸国は,さらに進んで多元的価値に基づく政治体制と,市場原理に基づく経済体制への移行に着手しています。また,国家間の関係においては,これまで進められてきた欧州共同体の統合に向けての進展に加えて,ドイツ民族の統一への動きが急激な展開を見せています。米ソ関係においても,これまでの冷戦の発想を超えた新しい関係の構築へ向かう動きがみられており,世界全体に大きな影響を及ぼしつつあります。

 もちろん,このような世界情勢の変化が,直ちに世界のすべての地域における平和と安定に結び付くとは限りません。世界の安全が依然として抑止と力の均衡によって確保されていることにも留意することが必要です。さらに,ソ連の構成共和国等で見られるように,今まで封じ込められてきた対立要因の顕在化という現象もみられます。古い国際秩序が移行期に入るとともに,混乱や無秩序やテロリズムや地域紛争が拡大したり,古くからの民族対立や宗教対立が復活するようなことがあってはなりません。私は,過去の冷戦時代の名残りを1日も早く取り除くと共に,新たな不安定要因の発生を未然に防ぎ止め,今,歴史が人類に与えた好機を人類の未来のために,賢明に役立てるべきだと確信します。私が先日ベルリンにおいて東欧諸国の改革に対する支援を明らかにしたのは,まさにこのような考えに立つものです。

議員の皆様,

 世界経済にも,大きな変化が現われております。

 第2次大戦後,多くの国は,多角的開放貿易体制を選択しましたが,その下で世界経済は大きく発展しました。とりわけ80年代の世界経済の拡大は著しいものがあります。私はその重要な要因の1つは,この間の先進経済諸国の政策協調の成功にあると考えます。このような政策協調は,先進国のみならず,開発途上諸国を含めた世界経済全体の発展を目指すものであり,我が国としても,引き続きその維持,強化を図っていく所存であります。

 他方,経済の幅広い分野における相互依存関係の深まりと地球化時代の到来とともに,現在の体制は,これまでのものと未来からのものとによる二重の挑戦を受けています。

 まず,依然として債務累積問題に悩む開発途上国もみられ,これら諸国の経済困難の解決を図ることが,世界経済全体のためにも必要であります。また,一方的主義,二国間主義,相互主義への偏重,閉鎖的な地域主義等の保護主義の脅威は根強く,戦後貿易秩序を支えてきたガット体制の維持,強化を図ることが急務であります。この関連で,経済の分野における相互依存の急速な進展の結果,これまでガット体制の枠組みにあったサービス,知的所有権,投資関連の取引が大きな比重を占めるようになり,モノの動きだけを律する体制を超えた新しい国際経済秩序の形成が要請されております。さらに近年,国際社会においては,地球環境,麻薬,テロ,人口増加等,地球的規模に立った取り組みを要する問題が現われてきています。

議員の皆様,

 こうした情勢の中で我々が迎えた1990年代は,新しい時代の始まりであります。同時にそれは,このように希望の中に不安が混在する時代でもあります。未来を保障する国際秩序の具体的な姿はいまだ明白ではなく,我々は,いまから力を合わせて,この新しい秩序を構築しなければなりません。

 私は,この新しい国際秩序は,次の条件を満たすものであるべきだと考えます。

第1に,平和と安全が永続的に保障されることであります。

第2に,自由と民主主義が国際秩序の基本的価値として尊重されることであります。

第3に,開放的な自由市場経済体制の下で繁栄が発展的に確保されることであります。

第4に,人間の幸福と福祉を満たす豊かな地球環境が確保されることであります。

 また,このような条件を満たす秩序は,国家間の対話と協調を通じてはじめて実現可能なものとなりましょう。

議員の皆様,

 日本は第2次世界大戦後,歴史の教訓に学び,軍事大国にならないことを選択しました。それは,これまで我が国の一貫した姿勢でありましたし,また,今後の基本的立場でもあります。力による対立が世界の秩序を支配する時代においては,国家間の秩序維持のためになし得る我が国の貢献は自ら限られたものであったと言えます。しかし,時代は大きく変わりました。対話と協調による新しい世界の構築が求められている現在,日本は,今日まで蓄積してきた経済力,技術力,経験をもとに,積極的な役割を果たしうるし,また果たしていかなければなりません。かかる認識に立って,我が国は一昨年「国際協力構想」を打ち出しました。これは,平和のための協力強化,政府開発援助の拡充強化,国際文化交流の強化の3つの柱からなっており,我が国は,この間,世界に向けてその着実な具体化を図って参りました。そして私は,いまやこの日本の構想が,一層の有効性を発揮できる時がきたものと信じます。

 また,私はこの機会に,インドを始めとする南西アジア諸国と日本が共に位置するアジアにおいて,我が国がこの地域の平和愛好諸国家と協力して,緊張の緩和と紛争の平和的解決等のためどのように積極的に貢献しようとしているかを申し上げておくことが必要であると考えます。

 まず,中国についてであります。我々が求めるのは,安定し開かれた中国であります。先般の天安門事件は誠に遺憾であると考えておりますが,同国が孤立化の道を進むことなく,世界の諸国と安定した協力関係を維持することは,アジア・太平洋地域の平和と繁栄にとり極めて重要であると認識しております。また,朝鮮半島の緊張緩和については,日本は基本的には南北両当事者の努力によるべきであると考えておりますが,その間韓国との友好協力関係を更に進めるかたわら,朝鮮民主主義人民共和国との関係改善を目指し直接対話の実現に努めたいと考えております。カンボディア問題については,我が国は,包括的政治解決の早期達成のための各種の努力を重ねてきております。我が国は,問題解決には,カンボディア人当事者間の対話の進展を図ることが最も重要と考えており,その方向で具体的に検討を進めています。

 日本にとってアジアの平和と安定は大きな関心事であります。東西の力の対立,冷戦時代の発想を乗り越えて,対話と協調によって新しい世界秩序を模索していこうという動きは,独り欧州にとどまらず,この地域へと連動させていかねばなりません。アジアの戦略的環境や歴史・文化的背景は欧州とは大きく異なっております。従って,この地域においては国家間の相互信頼関係を高め,より低いレベルの軍備で各国の安全保障を図り,対話と協調を基調とする国際関係を構築していくためには,この地域の特徴を踏まえて,この地域の実態に即した努力が多角的に行われることが重要であると考えます。

(日本の南西アジア政策)

議員の皆様,

 私は,次に,南西アジア諸国に対する我が国の考え方について申し上げたいと存じます。

 世界人口の5分の1に当たる10億の人々が住むこの地域の発展の問題は,それ自体21世紀に向けての人類の共通の重要な関心事の1つであります。今回,私が南西アジア諸国訪問を決意しましたのは,この偉大な文明と10億の人々の存在を背景に,限りない発展の可能性を有するこの地域と日本との友好協力関係を更に発展させるためであります。そして,世界の変革の中で,日本として対話と協力を通じて南西アジア諸国を含むアジアの政治的安定と経済的発展に対し,引き続き力強く支援していく考えであることを明確に表明するためであります。

議員の皆様,

 私は,南西アジア諸国と日本との関係を一層幅と深みのあるものにするため,以下の具体的方策を積極的に実施していきたいと考えます。これは,政治・経済対話の促進,開発援助の推進,文化交流と協力の促進であります。

 まず,政治・経済対話の促進について申し述べます。

 我が国の「国際協力構想」の第1の柱である「平和のための協力」の推進には政治対話が不可欠であります。近年,我が国と南西アジア諸国の要人の相互訪問を通じ,アジアを中心とする国際政治情勢につき活発な意見交換が行われていることは,大いに歓迎すべきことであります。既に,1984年の中曽根総理の訪問以来,インドからの首脳レベルの訪日は延べ4回あり,その都度有意義な意見交換が行われて参りました。本日の首脳会談におきましても,私は,首相閣下との忌憚のない話合いを行い,首相閣下に対して日本への公式訪問をご招待申し上げました。このような相互訪問を通じ,今後とも,南西アジア諸国,特にインドとの間では,二国間関係やアジア地域の問題にとどまることなく,広く地球的規模の問題についても率直な意見交換を重ねていきたいと思います。

インドの民主主義は世界最大であり,昨年1月の選挙は,人類史上最大の選挙でありました。さらに,私は,近年他の南西アジア諸国においても,国によっては紆余曲折もあったとはいえ,概ね議会制民主主義の定着と社会の安定が図られつつあることを心強く感じます。ネパールにおける最近の進展は歓迎すべきものであり,今後政治改革が具体的に進められていくことが期待されます。

 南西アジア域内各国の民族問題,宗教問題の行方は各国の国内の問題にとどまらず,域内の国家間の関係にも影響を与えてきたものと理解されます。私は,これらの国々が各々の制約の中で平和と反映に向けて最大限の努力を行ってこられたことを十分承知しており{前30、31字目(反映)ママ},この関連でカシミールの問題についても関心をもって事態の推移を見守って参りました。そして,インド・パキスタン両国政府が自制により事態の鎮静化を図ること,シムラ協定の文言と精神に基づき,話合いによって平和的に問題の解決を図ることを期待しています。

 議会制民主主義は,人類が様々な経験を経て到達した英知ある政治制度でありますが,他方,民主主義への道程が,各国それぞれの歴史,文化及び社会の実情を反映したものであることも否定できません。とりわけ,国民生活の安定と経済的発展は,議会制民主主義の発展と定着に大きな影響を与えるものであります。

 かかる観点から,私は,南西アジア諸国との間で,経済面においても,緊密な意見交換を行ってまいりたいと考えております。

 近年世界の経済はますます一体性と相互依存性を高めており,世界経済の運営に開発途上国の声を反映させていくことが重要となってきています。わが国と南西アジア諸国との経済面における対話もこのような文脈でとらえるべきものと考えます。

 21世紀に向けた国際貿易体制の行方を左右するウルグァイ・ラウンドの成功のためには,途上国の開発状況に適切に配慮しつつも,すべての参加国がすべての交渉分野について相応の貢献を行っていかなければなりません。この点についても,我々は対話を深める必要があると考えます。

 私は,南西アジア諸国が,独立以来,力強く自助努力の道を歩み続けてきたことを承知しております。南西アジアの経済開発をさらに一層推進するに当たって,域内諸国の緊張緩和と,協調関係の確立が重要な前提であることは言うまでもありません。これによって国民の生産的エネルギーが遺憾なく発揮され,域内諸国の国民経済の発展への環境を整備するのみならず,国家財政の資源配分においても安全保障のための負担を軽減し,経済発展に一層の優先度を与えることが可能となりましょう。

 その意味で,1985年における南アジア地域協力連合の発足は喜ばしいものでありました。私は,歴史,文化の絆により結ばれた南西アジア諸国が,主権平等,領土保全,国家の独立,武力不行使,内政不干渉という国連憲章の原則に忠実に基づき,各国国民の福祉の増進と社会・文化の発展等の目的を達成するため,力を合わせて一定の成果を挙げ,構成国間の関係改善にも効果を挙げようとしておられることに敬意を表します。私は,南アジア地域協力連合が種々の困難を英知と努力で克服し,設立に際して掲げられたこのような崇高な目的を一歩一歩実現されるよう希望するものであります。またそのため,機構としての南アジア地域協力連合が域外諸国との協力を進めることを希望されるのであれば,我が国としても適切な協力を検討することにやぶさかでありません。

議員の皆様,

 第2に,日本と南西アジア諸国との関係において,私が目指したいのは,開発援助の推進であります。

 我が国は,世界経済の相互依存関係の深化しつつあることを認識し,人道的考慮にも立って,途上国援助の拡充に積極的に取り組んできました。また,我が国は,アジアの中で近代化に努力してきた国として,開発援助の推進に独自の役割を持つものと考えてまいりました。

 かかる観点から,我が国は,「国際協力構想」の中でも開発援助の拡充をとりあげ,これに基づき,88年6月に政府開発援助の第4次中期目標を設定し,88年から92年までの5年間の政府開発援助実績総額を83年から87年までの過去5年間の倍以上の500億ドル以上となるよう努めることとしております。

 我が国の南西アジア諸国に対する政府開発援助は,我が国の二国間政府開発援助全体の約2割を占めております。日本政府としては,今後とも南西アジア地域を開発援助の重点地域の一つと位置づけ,可能な限りの努力を傾注してまいる考えであります。なお,東欧諸国が世界の関心を集め,我が国もこれら諸国の政治経済改革を支援するための経済協力の実現を表明いたしましたが,我が国の南西アジア重視の姿勢は,これによりいささかも揺らぐものではないことを付言いたします。

 政府開発援助は,量の面ばかりでなく,相手国の国情,開発ニーズに応じたきめ細かい対応を図っていくことが重要です。貧困撲滅と経済開発を目的として,開発途上諸国が行う自助努力を補強するため,我が国は,南西アジア諸国の真のニーズの把握につとめ,それぞれの国の事情に配慮した効果的,かつ効率的な援助を行っていけるよう,政策対話を一層強化していく所存であります。

 この点に関連して,私は,開発途上国におけるわが国の青年海外協力隊の活動に触れたいと存じます。私は,1965年におけるこの協力隊の創設に努力した一人でありますが,この協力隊は,4人の日本の青年がバングラデシュのコミュラーに赴いたことに始まるものです。この4人がバングラデシュで米作りに成功したことが,協力隊の発足につながったのです。今では協力隊員の開発育成した野菜や果物が盛んに栽培されるようになり,なかには,協力隊員の名前で呼ばれる野菜も出現するようになったとの話を聞き,大変喜ばしく,また誇らしく思っています。

 我が国と南西アジアとの間の協力関係は,政府による経済協力の面ばかりではなく,民間企業の活動分野でも強化されなければなりません。東欧及びソ連の実例は,企業家のイニシアチブや意欲を生かすことが活力ある経済発展のためにいかに重要であるかを如実に物語っております。いわゆるアジアNIEsの躍動的な発展を支えてきたのも,市場メカニズムを重視した経済政策及び外資誘致政策を背景とした活力ある民間投資であります。

 南西アジア諸国の活力ある経済発展の重要な鍵のひとつは,政府による規制を最小化し,公営企業の民営化を進めるとともに,産業インフラを整備し,内外投資家の投資意欲を増進させることでありましょう。我が国は,この地域の貿易・投資の主要なパートナーであり,日本政府としても,南西アジア諸国政府と協力しつつ,さらに経済関係強化のための制度上の枠組みを整備,活用していくことに努める所存であります。

議員の皆様,

 第3は,豊かな文化と歴史を有する南西アジア諸国との間に,我が国の「国際協力構想」の第3の柱をなす積極的な文化交流と協力を促進することであります。

 我が国からは,物質文明に飽きたらず,心の豊かさ,人生の価値,精神の啓発の源を求めて南西アジアへ渡る若者が後を断ちません。彼らは,喧騒と緊張から逃れ,安らぎを求めて,インドの古い歴史や伝統を全身で味わおうとしているのです。また,仏蹟を訪ねる我が国からの巡礼者は,あらゆる年代に亘っております。もっとも,日本におけるかかるインドへの憧れは現在に始まったものではなく,仏教が6世紀に日本に伝わって以来,インド亜大陸は常に我が国民にとって憧憬の対象でありました。私は,それが西洋がインド文明の偉大さに目覚めるのに先立つこと千数百年であることを指摘させていただきたいと思います。

 一昨年,我が国において約6ヵ月にわたりインド祭が行われ,日印文化交流に新しいページを開いたことは記憶に新しいところであります。多くの日本人は,その機会に,インドの古い歴史や伝統はもとより,現代から未来へつながる文化の息吹,更には,人類社会の前途を照らす悠久の哲学や精神に触れ,深い感銘を受けました。その際,上演されたインドの叙事詩「マハーバーラタ」が新たな演出と国際的配役の下に大好評を博しましたが,これは,伝統文化が新しい感覚でとらえられることにより,広く世界の文化をより豊かにすることができることを示したという意味で,今後の文化交流のあり方にひとつの方向性を示したものと言えましょう。

 87年にインドにおいて行われました日本月間では,日印文化交流の源が掘り起こされ,インドに源流を発する我が国芸能の一端が里帰りを果たす等,草の根の交流にも大きな成果がもたらされました。これによって,インドの国民は,,我が国が経済と技術の国であるのみならず,世界に誇りうる文化を有する国でもあることを,改めて認識されたのではないでしょうか。

 南西アジアは,文化遺跡の宝庫でありますが,これらは,また,人類共通の財産でもあります。この財産を大事に守っていくお手伝いをする道も,今後我が国として模索していきたいと考えます。

 最後に,人的交流の促進を通ずる相互理解の必要性に触れたいと思います。国と国との関係は,結局は,人と人との関係に帰着するものであります。現在我が国政府は,南西アジア諸国より,毎年多くの研修員を受け入れている他,青年招聘プログラムを実施し,相互理解の増進を図って参りました。この度,新たに未来の国造りを担う南西アジアの青年を今後5年間に500人我が国に招聘し,我が国の経済・社会についての理解を深めるとともに,日本の同世代の青年との交流を通じ,友情と信頼を培うことを目的とする日・南西アジア友情計画を発足させ,相互理解の一層の促進を図りたいと思います。

議員の皆様,

 私は,明日,当地を発って,バングラデシュ,パキスタン,そして,スリ・ランカの南西アジア諸国を訪問し,最後に東南アジアのインドネシアに立ち寄ります。この私の旅が,これら諸国と我が国の,そして,さらにこれら諸国間の連帯の絆を強めることに役立つならば,私にとって望外の喜びであります。

 我々が目前に迫った21世紀を,人が人として尊重される「平和と繁栄の時代」とするには,なお一層の変化が予想される20世紀最後の10年を通過しなければなりません。私は,このような時代において,同じアジアの仲間である日本と南西アジア諸国が協力してこの時代の荒波を乗り切り,新世紀に向けて力強く発展することを強く希望するものであります。

 貴国建国の英雄ネルー首相は,独立を迎える夜のインド議会に向かって,「今夜真夜中の鐘が鳴るとき,インドは生命と自由に目覚める」と語りかけました。10年後,21世紀を迎え入れる真夜中の鐘が鳴るときに,地球社会が,明るい展望をもって祝杯を挙げられるよう,共に語り共に働こうではありませんか。