データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ASEAN諸国訪問における海部俊樹内閣総理大臣政策演説(日本とASEAN―新時代の成熟したパートナーシップを求めて)

[場所] シンガポール
[年月日] 1991年5月3日
[出典] 外交青書35号,401ー410頁.
[備考] 
[全文]

1.はじめに

 御列席の皆様

 本日は,シンガポール各界を代表される方々の御出席を賜り,権威あるIPS(政策研究所),ISEAS(東南アジア研究所),SIIA(シンガポール国際問題研究所)の3研究所が共催で設けて下さったこの場で,我が国の外交に関する私の所信の一端を表明する機会を与えていただきました。心から感謝申し上げます。

 私は,昨日,新装となったチャンギ空港から市街地に向かう途中,車窓から「クリーン・アンド・グリーン」と称せられる整然として美しい街並と活気に満ちた人々の往来に触れて,シンガポールの現在の繁栄を目の当りにした思いでありました。また,その後お会いした方々から,独立後わずか25年で経済繁栄をかち得たこの国の足取りや21世紀に向けてのASEANの明るい展望についてお話をうかがって,まさに,ゴー・チョク・トン首相が述べられたように,21世紀に東北アジア,インドシナ,ASEANを結ぶ「繁栄の三角形」が出現するとの予感を覚えます。

 私は,シンガポールと日本が,その三角形の2つの極として,この地域に一層の繁栄をもたらすための欠くべからざるパートナーであると確信します。

2.湾岸危機が示すもの

 御列席の皆様

 ベルリンの壁の崩壊に象徴される東西対立の解消が進む中で,昨年8月,突如として勃発した湾岸危機は,世界の人々に大きな衝撃を与えました。イラクによるクウェイトの侵略は,国際社会の平和と安全を破壊し,世界が新しい国際秩序の構築を模索する中にあって,この努力を真っ向から否定するものでありました。もし国際社会がイラクの侵略行為を既成事実として許していれば,また,もし国連のもとへの結集に成功していなかったとすれば,第2,第3のイラクが我々と子孫の生活を脅かしたことでしょう。

 私はここで,あの重大な危機に際して,アジア諸国が国情の違いはありましたが,さまざまな貢献を行ったことを想起したいと思います。ASEAN各国はいずれも国連安保理の一連の決議を支持,遵守しました。また,シンガポール,タイ,フィリピン,韓国は医療団の派遣を行いましたし,パキスタン,バングラデシュは多国籍軍に参加してたたかいました。私は,これら諸国の努力に深い敬意を表するものであります。我が国もまた,国連決議に先立って包括的経済措置を発表し,湾岸の平和を回復するための関係諸国の努力に対して総額100億ドルを上回る各種の協力を行いました。これらアジア諸国の貢献は,新しい国際秩序を構築していく上で,近年飛躍的に国力を増大してきたアジアの積極的参加が極めて重要であることを示したものと言えましょう。停戦後の今,シンガポール,インドネシア,タイ,マレイシアといったASEANをはじめとする多くのアジアの諸国が国連のイラク・クウェイト停戦監視団に参加することとなったのも,こうしたアジアの貢献の一例であります。

 他方,このいわゆる湾岸戦争のもたらした災害は,きわめて大きなものでありました。戦場となった地域住民の悲惨さは言うまでもなく,避難民の発生や経済的被害はまことに甚大であり,その影響は周辺諸国はもとより,アジアにも及びました。我が国は,中東の周辺諸国に対する20億ドル程度の経済協力,また,6000万ドルの避難民救済のための協力を行ったほか,シリア,フィリピン,スリランカに対し,湾岸危機による影響に配慮した緊急の経済協力を行ってきました。更に,ヴィエトナム,フィリピン,タイ等アジアの避難民が本国に帰還するためのお手伝いをしました。

 その後,停戦は成立したものの,イラク国内の内線にともなう大量のクルド人避難民の発生,原油の流出,油井の爆破等による環境汚染等,戦後の状況はなお深刻であり,その解決と修復は容易なことではないと思われます。

 こうした状況下,我が国は,今般,クルド人を中心とするイラク人避難民に対し,総額1億ドルの資金協力を決定した他,環境対策等についても引き続き可能な限りの協力を行っていく方針であります。

3.国際秩序の特徴

 御列席の皆様

 このように悲惨な事態がなぜ起こってしまったのでしょうか。それには,さまざまな説明が可能と思われますが,私は基本的には,これまで東西対立の蔭に隠れていた宗教,民族,領土等に起因する各種の対立や紛争が,冷戦構造の解消にともなって表面化してきたことをその主要な原因として指摘できると思います。それは,過渡期に特有の不確実性や不安定性の現れとも言えるでありましょう。欧州における好ましい動きの端緒をつくったソ連も,その後国内の民族対立や経済的困難が混乱を引き起こし,このことは国際関係の先行きにも不安感を与えています。

 我々は,この過渡期の性格を正確に把握し,誤りない対応の道を見出すことが必要です。そこで,私は,今日の国際情勢の背後にどのような要因が存在するかということについて簡単に触れてみたいと思います。

 まず,世界の主要国間の力関係の変化があります。冷戦構造の解消にともなって,世界は明らかに二極構造から多極構造に変わってきました。西欧と日本は,米国とともに主要な役割を果たすべき国家としてますますその重要性を高めてきております。更にアジアのNIES,ASEAN等の新たな諸国が国際社会の重要な担い手として登場してきております。

 また,国際関係を動かす力の内容が変わってきました。湾岸危機において,国際社会の秩序維持のための最終の手段が軍事力であったことを忘れるべきではありませんが,今日,軍事力は,国際関係を動かす要因としての重要性を総体的に低下させており,経済力や科学技術力,更には社会の秩序などを含む総体的な力がこれまで以上に重要になってきています。

 加うるに,相互依存の急速な拡大の結果,環境問題や麻薬,テロリズム等さまざまな問題が一国ないし一地域だけでは解決できなくなり,広く国際社会全体の協調と連帯による解決が必要となってきました。こうした国際情勢の変化の中で,平和をより確実なものとし,繁栄を国際社会全体が享受していくためには,各国が自らの力だけに頼らず,地域的,世界的な国際協力の枠組みを強化していかねばなりません。日本はそのためにあらゆる労力を払う覚悟であります。

4.1990年代のアジア・太平洋地域の展望と我が国の役割

 御列席の皆様

 アジアのNIES,ASEANをはじめとするアジア・太平洋諸国がダイナミックな発展を通じて国際経済運営に大きな地歩を占めつつあることは,すでに世界の人々の認めるところとなりました。我々はこの動きを更に強めていくことが必要です。同時に我々は,経済のみならず,政治面,社会面,外交面でも,自由と民主主義を基礎としたより安定した勢力となるよう努力しなければなりません。その意味から,一時期懸念された中国が安定化の傾向を強めてきたこと,モンゴル,ネパール,バングラデシュ等の諸国で,自由や民主主義を求める動きが確かな胎動となっていること等は,明日への大きな希望を抱かせます。新たな時代に向けて,アジア・太平洋地域の平和と繁栄のため,今こそ共同の努力を強め,それぞれがもてる力と知恵とを結集し,世界に誇れる地域社会作りに邁進すべき時ではないでしょうか。

(我が国の経済的役割)

 御列席の皆様

 アジア・太平洋地域は,平和と繁栄を発展させていく上で,その条件が,欧州と大きく異なっています。そのため,平和と安定の確保や発展の道筋が欧州と異なることは当然です。我々は,我々自身のやり方でその道筋を探求していかなければなりません。

 以下,私は,アジア・太平洋地域の特徴にふれつつ,我が国がこの地域の一員として果たすべき役割について,私の所見を申し述べたいと思います。

 アジア・太平洋地域の大きな特徴の一つは,域内の多くの国が開発途上国であり,各国の最大の関心事が経済発展であり社会の安定であるということです。この地域の平和と安定にとって最も重要なことは,域内の開発途上諸国の経済発展を図り,国内の貧困と民生の不安定を除去するとともに,諸国間の相互依存関係を強化して,この地域の強靭性を高めることでありましょう。私は,この地域の国々のそのような努力に対して我が国が,今後一層積極的な役割を果たすべきことを十分に自覚しております。

 我が国は,域内諸国の貿易構造の成熟化や発展段階に即した輸入の拡大投資と技術移転の促進を引き続き強化します。なお,我が国からの投資や技術移転を受ける側においても,環境の整備に向けての一層の努力をこの機会にお願いしたいと思います。

 我が国の政府開発援助の最重点地域がASEANを中心とするアジア地域であることは今後とも変わりはありません。我が国は,政府開発援助を実施するに当たっては,各国の多様な開発ニーズに応じ,また貿易,投資,技術移転の果たす役割にも十分配慮し,各種の環境問題への対応も十分に念頭に置いて,総合的な経済協力を推進してまいります。なお,私は,この地域のかつての被援助国が援助国へと見事な変貌を遂げる例が現れてきたことを心から喜んでおります。

 アジア・太平洋地域の活力は,世界経済の成長を支え,開放的な自由貿易体制を維持する上で重要な役割を果たすものとならなければなりません。特に,この地域の活力の源が開放的な自由貿易体制に依拠していることに鑑みれば,ウルグァイ・ラウンドの早期かつ成功裡の終結は単に経済の分野を超える極めて重要な意味を持つものであり,この地域の最優先課題の一つとして位置づけられるべきものでありましょう。ラウンドが失敗すれば大きな影響を受けるのがこの地域であり,我が国としてもラウンドの成功のためできる限りの努力を行う覚悟であります。更に,一昨年11月に発足したAPECは,21世紀に向けて,アジア・太平洋地域の潜在的な力を活性化させ,安定と繁栄に向けての活力あるエンジンとして既に始動しております。我が国としては,この協力の推進に積極的に取り組んでまいります。

 近年,東アジアの驚異的な経済発展を背景にして,この地域には,地域協力の一層の強化を目指す動きが見られます。この関連で,今回の訪問において,マレイシアのマハディール首相から,そのような努力の一環として,同首相の提唱に係る東アジア経済グループ構想(EAEG)につきご説明がありました。東アジア諸国の経済がグローバルな市場における開放的な自由貿易体制を享受しつつ発展してきたことを考えれば,この地域の経済協力があくまでも保護主義の傾向を防ぎ,開かれた協力を目指すものでなければならないことは当然です。我が国としては,今後ともかかる立場を基本としつつ,この地域の経済協力のあり方について考えていきたいと思います。

 地球環境問題への国際的取組みは益々重要性を増していますが,我が国は,環境分野の国際的枠組み作りや途上国支援に果たすべき自らの役割を十分に自覚し,引き続き資金面,技術面での積極的な貢献を行います。特に,経済と環境の調和を図る「持続的開発」はアジア・太平洋地域の発展にとって極めて重要であり,我が国はこの2つの調和を目指して,環境問題にとり組む決意であります。

(我が国の政治的役割)

 御列席の皆様

 私は,国際秩序の変革期にあって,今や,我が国がアジア・太平洋地域において果たすことを期待されている国際的貢献は経済の分野のみならず,政治面においても,また大きくなってきていることを痛感します。そして,我が国が今後,より積極的な政治的役割を果たすに当たり,想起すべきは過去の歴史認識の問題であります。

 今年は,太平洋戦争の開始から50年になります。この節目に当たる年に,私は,あらためて今世紀前半の歴史を振り返り,多くのアジア・太平洋地域の人々に,耐えがたい苦しみと悲しみをもたらした我が国の行為を厳しく反省するものであります。我が国民はそのような悲劇をもたらした行動を2度と繰り返してはならないと固く決意し,戦後40数年に亘り,平和国家の理念と決意を政策に反映する努力をしてきました。日本の国際的貢献への期待が高まっている今日,我が国民一人一人がアジア地域ひいては国際社会の平和と反映のために如何なる貢献ができるかを考えるに当たって,何よりも先ず日本国民すべてが過去の我が国の行動についての深い反省にたって,正しい歴史認識を持つことが不可欠であると信じます。私は,我が国の次代を担う若者達が学校教育や社会教育を通じて我が国の近現代にわたる歴史を正確に理解することを重視して,その面での努力を一段と強化することと致しました。

 御列席の皆様

 我が国は,今申し述べた歴史の反省を十分に踏まえた上で,政治面においても,平和国家としての我が国に相応しい貢献を行いたいと考えております。

 欧州と比較した場合,アジア・太平洋地域の政治環境における際立ったいま一つの特徴はカンボディア問題,朝鮮半島における南北対立,日ソ間の北方領土問題等の未解決の紛争,対立,問題が依然として存在していることであります。これらを解決しないかぎり,この地域に真の平和と安全はもたらされません。こうした認識のもと,我が国はこれまでも,地域の紛争や対立の解決に積極的にとり組んできましたが,今後,より一層の努力を尽くしていく決意であります。

 インドシナ地域の最大の問題であるカンボディア問題は,今や,和平プロセスの最終段階に至りました。包括和平案が,カンボディア各派に示された現在,すべてのカンボディア当事者がこれを受入れるかどうかが鍵でありますが,本年に入ってからの和平への動きは停滞気味であり,日本政府としても懸念を強めております。

 その中で,ひとつの明るい兆しは,先月末,武力行使自粛アピールを対立する各派が受け入れたことです。我が国は,フランスのデュマ外相と共に,このアピールを出されたパリ会議共同議長であるインドネシアのアラタス外相の献身的努力を高く評価し,今後とも共同議長の役割に強く期待しています。

 我が国は,和平プロセスの推進のため,カンボディア当事者に対し,一連の働きかけを重ねて参りました。最近も,あらゆる機会を捉え,カンボディアのすべての派と接触を深めてきており,武力行使の自粛が実施に移された一昨日には,私自身バンコクで,カンボディア国民政府の指導者に対し,停戦の遵守を要請してきました。今こそカンボディア各派の和解へ向けての真剣な努力が死活的に重要であり,我が国としては,戦場で対峙する両派の間に政治解決への共通認識が生まれるよう,あらゆる努力を惜しみません。

 インドシナ地域は,歴史的に,諸民族・国家のダイナミックな交流の舞台でありました。私は,将来再びインドシナに平和がもたらされ,ASEANとの交流が大きく拡大された時こそ,東南アジア全体の真の平和と繁栄を永続することが可能になると確信します。将来ASEANとインドシナが,良きパートナーとして共に発展いていくよう,できるかぎりの協力を行っていく考えであります。その一助として,カンボディア和平達成後,将来のカンボディア,ひいてはインドシナの復興を目的とする「カンボディア復興に関する国際会議」を,適当な時期に我が国において,開催する用意があることをここで申し上げたいと思います。

御列席の皆様

 朝鮮半島の平和的統一は日本国民の願いでもあります。韓ソ国交関係の樹立と南北朝鮮の交流の動きは,朝鮮半島の平和と安定へ向けての努力として評価されるところですが,これを一層定着させるためにも,現在中断されている南北対話が早期に再開され,実質的な進展が見られることを希望します。我が国は,本年1月に開始された朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化交渉において,自由と民主主義という基本的価値を共有する韓国との友好関係の維持強化を前提としつつ,朝鮮半島の平和と安定に資するような形で,この交渉を進めていく所存であります。

 また,中国が各分野での改革・開放政策を推進し,安定的に発展していくことは,この地域の安定及び繁栄にとって極めて重要であります。我が国はそのような観点から,今後とも改革・開放政策に基づく中国の近代化努力に対して,できる限りの協力を行っていく方針であり,私自身,本年内のできるだけ早い時期に中国を訪問したいと考えています。

 同様に,ソ連のこの地域に対する対応は,この地域の諸国が等しく関心を有する重要な課題であります。我が国はソ連との間に北方4島返還の問題を抱えており,未だに平和条約を結ぶに至っておりません。先般,ゴルバチョフ大統領がソ連の首脳として初めて我が国を訪問し,私との真剣な協議の結果,歯舞,色丹,国後,択捉の北方四島が平和条約において解決されるべき領土問題の対象であることを日ソ間の文書において初めて明確に確認したことは,今後日ソ関係を新たに推進していく契機となるものであります。日ソ関係の抜本的改善は二国間関係にとって重要であるばかりでなく,アジア・太平洋地域の平和と安全にとってより長期的かつ広範な意味を持つものであります。我が国は日ソ関係の真の正常化と飛躍的発展を一日も早く実現するべく,引き続き努力していきます。私は,また,新思考外交を標榜するソ連が,カンボディア和平をめぐる国際的努力や朝鮮半島情勢の改善に関し,一定の役割を果たしてきていることを歓迎します。ソ連がこのような個別の地域問題の解決に建設的な姿勢を示していくことこそ,ソ連がアジア・太平洋の責任あるパートナーとして迎え入れられる道でありましょう。

御列席の皆様

 今般の湾岸危機は,平和国家としての日本が,具体的に国際平和の維持に如何に参画するかを,国民全体に改めて真剣に考えさせる機会となりました。テレビの映像に写し出された湾岸における戦闘は,我々に自国の防衛の限度をはるかに上回る武器の輸入及び過度の武器輸出が如何なる結果をもたらしうるかを教えました。

 我が国は,平和国家として,戦後一貫して非核三原則を堅持するとともに,武器輸出についても,武器輸出三原則に基づき,20数年来極めて厳格な立場で臨んで参りました。我が国は,世界が湾岸危機の与えた教訓を学びとり,軍備管理・軍縮を一歩も二歩も前進させるよう,我が国の独自の貢献を行って参ります。

 このような考え方に基づき,我が国は先般,大量破壊兵器及びミサイル不拡散に関する国際的な枠組みの整備・強化とともに,国際武器移転に関する国連への報告制度の確立等による透明性・公開性の増大や武器輸出国による自主規制に関する枠組みの整備・強化の検討を国際社会に呼び掛けました。本5月には,我が国の提唱により,京都で国連軍縮会議が開催されますが,経済大国であり,技術大国である我が国が,平和国家として,このような努力を継続していくことの意味は,決して小さいものではないと確信しています。また,同様の観点から,先般,私は,我が国の国会において,我が国政府開発援助の実施においても被援助国の軍事支出・武器輸出入等の動向に十分配慮していくとの考え方明らかにいたしました。

 我が国は,今次危機に際し,主に,資金協力という形で貢献を行ってきました。しかし,今日,我が国に問いかけられている問題は,こうした局面において,財政面での協力のみで国際社会全体の平和と安定のために,十分な責任を果たせるのかということであります。我が国としては,今後,「平和のための協力」の一環として,特に,人的側面での貢献を行っていく決意であり,現在,湾岸危機後の貢献策として,主に人的な協力を念頭に置きつつ,環境回復活動への支援を実施してきている他,イラク,クウェイト国境地帯へのPKOへの政務官の派遣及びイラクの大量破壊兵器の破壊に関する国連の特別委員会への専門家の参加を鋭意準備しているとろこであります。特にペルシャ湾北部には機雷が未だ多数残存しており,同水域における船舶の安全航行の確保のため,また,湾岸地域の通商の正常化と復興に貢献するため,今般,掃海艇の派遣を決定しました。この掃海艇派遣は,我が国が,国際社会において軍事的役割を果たさんとするものではなく,また,日本の基本的防衛政策の変更を意味するものではありません。国際社会による平和に向けての共同努力の中で,我が国として何がなしうるかを真剣に考えた上での決定であり,今後とも,かかる「平和のための協力」の実施に向けての努力を通じ,我が国は,国際社会における自らの責務を積極的に果たしていきたいと考えています。

 御列席の皆様

 もとより,私は,我が国のとる政策如何で,時としてアジア諸国の一部に,我が国の軍事大国化につながるのではないかとの懸念が生ずることをよく承知しております。しかし,圧倒的大多数の日本国民は,平和を愛し,戦争を心から憎んでいることを皆様に申しあげたいと思います。また,今日我が国におけるシビリアン・コントロールは確固たるものがあります。

 戦後,我が国は,平和憲法の下,専守防衛に徹し,他国に脅威を与えるような軍事大国にはならないとの基本理念に立って,日米安保体制を堅持し,節度ある防衛力の整備を図ることにより自らの安全を確保してまいりました。我が国は,歴史の反省にたって,このような平和国家の理念を堅持して参ります。

 なお,アジア・太平洋地域の平和と繁栄の問題は,米国の役割を抜きにして語ることはできません。今回の湾岸危機は,米国が,世界の平和と秩序を維持するためのグローバルな能力と意思を保ち続けることが如何に重要であるかを示しました。我々は,アジア・太平洋地域においても米国の存在が重要であり,それが,軍事面のみならず政治面においても重要な安定要因であることを銘記しなければならません。こうした観点から,私は,アジア・太平洋地域の平和と繁栄のため,米国が活力ある太平洋国家として引き続き積極的な役割を果たすことを強く望むものであります。また,我が国が米国との間に維持している日米安保体制は,アジア・太平洋地域の平和と安定の重要な枠組みを提供しており,これを基軸とした堅固な日米協力関係の維持発展は,今日ダイナミックに展開しつつあるアジア・太平洋地域社会で,これまで以上に重要な意味を帯びるに違いありません。

5.日本・ASEAN間の成熟したパートナーシップ

私はアジア・太平洋地域の特徴について,第1に,域内の多くの国の関心事は経済発展であり,社会の安定であること,第2は,依然として朝鮮半島における南北対立,カンボディア問題,日ソ間の領土問題などの未解決の紛争や対立が存在していることについて述べ,我が国としては,こうした特徴を踏まえ,この地域の長期的な安定確保に向けて政治,経済両面において積極的な貢献を行っていきたいということを述べて参りました。

 アジア・太平洋地域のもう一つの特徴は多様性でありましょう。欧州ではEC統合の動きを中心に,政治的にも経済的にも統合に向けての大きな流れがあるのに対して,この地域では,むしろ,国家や地域の政治,社会,文化,経済発展段階等の相違を基礎に,経済的な相互依存関係が追求されています。

 なかでも,ASEANはこれまで,異なった体制,異なった宗教,異なった文化の諸国が協力するという壮大な試みに勇敢に取り組み,誇るべき成果を収めてきました。ASEAN諸国は,自由経済体制の下で,創意に溢れた企業精神と勤勉な努力により,着実に国造りを進め,経済発展の一つのモデルを示しました。

 我が国は,かねてからASEAN諸国を重視し,あらゆる分野で協力関係の構築に努力してきました。それだけにASEANの発展は私たちの誇りでもあります。そして,国際情勢の変化に伴い,これまでより,はるかに大きな力を持つようになったASEANは,いまや,自らがより高い目標に向けて協力関係をさらに深化し,多角化する時期にきていると考えています。私は,ASEANと日本は,アジア・太平洋の平和と繁栄のために何をなしうるかを真剣に問い,それに向けて,共に考え,共に努力する成熟したパートナーになりつつあると思います。

 我が国とASEANは長年の対話を積み重ねた結果,経済分野,政治分野を問わず何事でも率直に意見を言い合える間柄になりました。私は,今後さらに,あらゆる問題について忌憚のない対話ができる関係を育てて行くとともに,更なる協力関係の発展に向けて格別の努力をしてまいります。

 日本とASEANの成熟したパートナーシップを支える基盤は,日本とASEAN諸国との間におけるあらゆるレベルでの確固たる相互信頼でありましょう。「心と心の触れ合い」の重要性が指摘されてからすでに10年余,これまで日本とASEANの間には,国民レベルの相互理解と相互信頼を推進するために多くの交流計画が実施され,大きな成果を挙げてきました。もとより,双方の国民間にまだ残存する誤解や偏見を,一朝一夕にして除去できるわけではありません。私は,国民間の接触の機会が格段に増大した現在,日本・ASEAN関係に携わる一人一人が,個人と個人の触れあい,そして人間としての誠意を軸とした関係を作っていくことが一層重要になっていると信じます。日本とASEAN諸国との間の信頼をもっともっとゆるぎないものにしていくこと,それが,今日ほど重要な時はありません。

6.結び

 御列席の皆様

 協調と協力を基調とする国際社会の潮流は,アジア・太平洋全域にわたり勢いを強めています。我々は,その潮流をより確かなものとするよう,さらに努力を続けていかなければなりません。私たちが目指すべきアジア・太平洋の世界は,多様性を基礎に政治・経済・文化のあらゆる面で相互に刺激し合う創造的な世界であります。それは,外に対して開かれ,全世界に活力を与えるダイナミックな世界であります。今こそ20年余にわたり培って来た日本・ASEAN協力の真価を発揮し,このような社会の実現を目指して共に前進しようではありませんか。そして,アジア・太平洋全域において平和と繁栄が満ち溢れ,人間らしい豊かな生活が可能となるよう共に全力を尽くそうではありませんか。このための協力を通じて,我々は新しい国際秩序のあるべき姿についての,一つの道を示すことができると信じます。

 ありがとうございました。