データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 戦略国際問題研究所国際評議員会合における宮澤内閣総理大臣の講演,日本の国際的役割―新しい協力関係の枠組の構築を求めて

[場所] 
[年月日] 1992年10月22日
[出典] 宮沢内閣総理大臣演説集,184ー189頁.
[備考] 
[全文]

 アブシャイヤー会長,キッシンジャー議長,並びに御列席の皆様

 設立三十周年を記念しての,今次CSIS国際評議員会合において講演する機会を得ましたことは,私にとって大変光栄なことであります。

 冷戦後の時代という言葉は,単に冷戦の終焉を意味するのみではなく,なにかの始まりをも意味するものでなければなりません。我々は,今や世界平和のための新しい協力関係の枠組みを構築する時代にさしかかっていると考えております。

 このように,我々は,人類が,より自由で,より平和な,そしてより豊かな世界を作る歴史的な機会を目前にしております。同時に,我々は,国家,民族間の紛争,貧困,大量破壊兵器の拡散など数々の国際的問題を克服しなければなりません。ユーゴー,ソマリア等において,このような厳しい現実に直面しています。一部地域における通常兵器移転の問題に対しては,より慎重な対応が求められております。

 先進民主主義各国は,低成長の下で,関心が内向きに傾いているのかもしれません。そうした内向きの傾向が,各国間の相互依存関係の構造を脅かしうろことが懸念されます。

 今日,これらの課題に立ち向かい,新しい協力関係の枠組みを構築していくため,従来にも増して,主要先進諸国,特に,日米欧の協力関係を促進していくことが必要であります。

 御列席の皆様

 米国がリーダーシップを引き続き発揮していくことが,新しい世界的協力関係を構築していく上で不可欠であります。この関連で,日米両国間において,日米協力関係の重要性についての揺るぎない信念が共有されております。私は,日米間の協力関係が今後とも引続き発展することを確信しております。

 アジア・太平洋地域にとって,米国のプレゼンスは依然として極めて重要であります。軍事,政治面で,米国のプレゼンスは,従来より,また,今後とも同地城の重要な安定要因であります。また,経済面での,米国と他の域内国との間での強い相互依存関係は紛れもない事実であります。

 我が国としては,在日米軍に対する接受国支援を推進するために最大限の努力をしてきており,アジア・太平洋地域の平和と発展のために引き続き米国と協力していく所存です。

 近年,経済分野のみならず,政治・安全保障協力の分野におけるアジア・太平洋での地域協力の概念及び形態に関して,幅広い議論が行われてきております。私は,七月,ワシントンのナショナル・プレス・クラブにおいて,アジア・太平洋での平和と安全保障に関する諸問題について,お互いの安心感を高めるための全域的な政治対話が必要であると述べました。私は,日米及び他の域内諸国が,そのようなアジア・太平洋地域協力の枠組みを,さらに考えていく時期にきていると考えております。

 我が国は,欧州との協力強化も極めて重視しております。

 私は,欧州が,統合という壮大な課題への取組において,その直面している様々な困難を克服することを確信しております。また,私は,統合された欧州が,域外に対し開放的であり続けるとともに,国際社会において建設的な役割を果たしていくことを期待しております。

 日欧関係では,これまで経済に焦点が集まりがちでありましたが,日欧は,政治,文化,環境等の分野においても協力を促進しております。昨年発出された日・EC共同宣言はその方向性を示したものであり,また,我が国とCSCEとの間での対話強化のために一層の努力が行われております。

 御列席の皆様

 ロシア等旧ソ連邦諸国が,新しい協力関係の枠組みにおいて建設的な役割を果たすことは極めて重要であります。その関連で,我が国の対露政策について述べたいと思います。

 日露両国の間では,平和条約が未締結です。このことは,隣国である両国にとって極めて不自然な状況であります。両国が協力して世界の平和と安定の確保に取り組むためにも,領土問題の解決を通じた日露関係の完全正常化が不可欠であります。

 私は,他のサミット参加国首脳とともに,法と正義に基づく外交政策を遂行するとのロシアの公約が日露関係の正常化の基礎となるべきという信念を共有しており,これは,本年七月のミュンヘン・サミットの政治宣言にも明記されたところであります。

 同時に,我が国は,ロ露関係を全ての側面において,均衡を図りつつ発展させていく所存です。

 ロシアが,民主主義,市場経済及びその他の基本的価値の実現に向けての改革努力を成功させることは,我々全体にとっての利益であるという信念の下に,我が国も,ロシアの改革を支援する国際的努力に重要かつ適切な役割を果たしているところであります。

 我が国は,IMF第九次増資が完了した暁には,IMFに対する第二位の拠出国になります。二百四十億ドルの多国間支援パッケージが前進するために,我々はロシアとIMFとの間でのスタンド・バイ取極の交渉ができるだけ速やかに妥結することを希望しております。一方では,我が国の二国間支援も進展しております。九月には食糧,医薬品のための一億ドルの輸銀融資につき署名し,また,天然ガス産業のための七億ドルの資材供給に対し,貿易保険を付保し,輸出信用の供与を約したところです。加えて,我が国は,石油産業のための資材供給に対して,契約交渉が妥結した際に,別途七億ドルの輸出信用を供与する用意があります。

 さらに,我が国は,旧ソ連邦諸国に対するその他の分野での多国間での支援努力においても積極的に参画しております。兵器の生産に従事していた科学者の職を維持することにより彼等の国外への流出を防止するために,我が国は,国際科学技術センターに対する二千万ドルの拠出を表明しました。我が国は,旧ソ連型原子力発電所の安全性改善のためにも二千五百万ドルの拠出を行うこととしております。

 旧ソ連邦諸国に対する技術支援及び人道支援は,これらの諸国が社会・経済体制の変革に取り組むに当たって緊要であります。このため,我が国は,今月末に,対NIS支援東京会議を開催する予定であります。私は,この会議で発出されるアピールに対して,国際社会が十分耳を傾けることを切に希望しております。

 御列席の皆様

 これらの課題に照らして,我が国自身はいかなる役割を果たしていくべきでしょうか。

 まず第一に,我が国は,世界の経済大国の一国として,世界経済の健全な運営に貢献していきます。ミュンヘン・サミットでの集中的議論にもかかわらず,G7諸国の経済は依然として停滞しております。我が国の経済も厳しい状況に直面しております。我が国は,このような状況の下で,八月末に,日本経済を刺激し,また内需主導のインフレなき持続的成長の軌道に乗せるために,八百六十億ドル規模の総合経済対策を決定しました。我々は,これらの措置が世界経済の速やかな回復にも資することを期待しております。我々は,これらの措置を着実に実施し,また,早急に補正予算を国会に提出する所存です。また,我が国は,ウルグアイ・ラウンド交渉の成功に向け,最大限の努力を傾注していく決意であります。

 第二に,開発途上国の貧困の問題に重大な関心を向ける必要があります。開発途上国の人々は,軍備拡張のために使われた資源を,より平和で建設的な目的のために向けることにより生ずる「平和の配当」を分かち合うべきであります。一九九一年実績で約百十億ドルにのぼる世界最大のODA供与国である我が国は,開発途上国の経済・社会開発を促進するための貢献を引き続き行っていきます。また,我が国は,一九八七年以来,過去五年間に亘り開発途上国に対する資金フローを促進するために六百五十億ドルの資金還流計画を実施しております。さらに,我が国は,アジア以外の地域にも一層の関心を向けており,例えば,明年秋には,「アフリカ開発会議」を東京で開催する予定であります。

 第三に,我が国は,地球的規模の問題への取組とともに,政治面でもより大きな役割を果たしていくよう努力していきます。

 政治面においては,例えば,国内における長期にわたっての困難な議論を経て,現在,カンボディアでの国連平和維持活動に我が国の自衛隊及び警察要員が従事しております。また,我々は,本年六月にカンボディア復興閣僚会議を主催し,同会議において,我が国による一億五千万ドルから二億ドルをはじめとして,参加国より,八億八千万ドルにのぼる支援の表明が行われました。

 我々は,また,カンボディア和平プロセスの完全な実施を確保するための努力を引き続き行ってまいります。我が国は,タイとともに,民主カンボディアに対して,パリ協定において規定された停戦の第二段階の下での義務の履行を働きかけていくために最大限の努力をしております。

 軍備管理分野では,我が国は,国連軍備登録制度を創設するためにイニシアティヴをとりました。我々は,この制度の下で,国連に,参加国の兵器の移転が報告され,兵器移転の透明性が高まることを期待しております。

 地球環境問題に対する我が国の取組努力としては,我が国は,七月の地球サミットにおいて,今後五年間に約七十億ドルから七十七億ドルを目途として環境関連のODAを拡大する旨表明しました。

 御列席の皆様

 我々は,新しい世界平和の枠組を構築する未曾有の機会を手にしています。我々は,この機会を現実のものとするよう協力していかなければなりません。我々は,世界の未来をより明るいものとするために歴史の流れを確たるものとするべく,手を携えていかなければなりません。我が国は,このような共通の努力の中で,積極的な役割を引き続き果たしてまいります。

 最後に,今次会合の成功を祈念して,私の講演の終わりにしたいと思います。有難うございました。