データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 1995年3月11日

[場所] 
[年月日] コペンハーゲン
[出典] 社会開発サミットにおける村山富市内閣総理大臣演説
[備考] 
[全文]

議長閣下、

事務総長閣下、

ご列席の皆様、

 私は、本日、日本国政府を代表して、皆様の前で所見を述べますことを光栄に存じます。併せて、開催国であるデンマーク政府を始めとする関係者の方々のご尽力に、心から敬意を表します。

(地震支援に対する謝意表明)

議長、

 まず、この場を借りまして、日本国政府及び国民を代表し、このたびの阪神・淡路大震災に際し、ここにご出席の皆様方を始めとする世界中の政府、国際機関、NGO、そしてボランティアの皆様から寄せられました、暖かいお見舞いとご援助に対し、心からお礼申し上げます。諺に「困った時の友は真の友」と言いますが、我々日本人はまさに世界中に真の友を得た思いであります。

 我が国は、これらのご支援に報いるためにも、我が国が今回得た経験の紹介も含め、防災分野において、引き続き国際協力を積極的に行っていきたいと考えます。皆様ご承知の通り、昨年我が国において防災の世界会議が開催され、地域レベルでの防災対策強化を訴える「横浜戦略」が採択されましたが、我が国は、その第一歩として、できるだけ早期に閣僚レベルの「アジア防災政策会議」を開催し、アジア地域における防災対策強化のための施策につき、関係各国とともに、検討を開始したいと考えます。

(社会開発の理念)

議長、

 世界は、今日なお、地域紛争の続発、また、その背景でもある貧困と社会の不安定の問題を抱えております。国連を中心とした国際社会は、その解決に向け、更に不断の努力を重ねていかなければなりません。しかしながら、冷戦下の「東西対立」の構造の中で作り出されてきた「南北対立」という構図が変貌しつつある現在、我々は、先進国、途上国を問わず、人々の安寧を脅かす貧困、失業、社会的疎外といった困難な社会問題に、現実的に取り組む好機を迎えております。この好機を逃さず、国連50周年という記念すべき年に開催されるこの社会開発サミットには、特別な歴史的意義があると私は思います。

議長、

 我が国は、戦後、平和国家として再出発し、自由、平等、公正を基本理念として、民主主義と市場経済の下で、経済・社会の発展に努めてきました。私は、今後日本社会が目指すべき一つの姿として、市民一人一人が社会の中で平等に扱われ、個人の能力が十分に開発され、雇用や社会参加を通じてその能力を十分に発揮できるような、「人にやさしい社会」の創造を目指し、国政に取り組んでおります。このような私の政治理念は、今回の社会開発サミットの中心課題である「社会的公正」の実現と、軌を同じくするものと考えております。

(社会開発のための政策視点)

議長、

 私は、社会開発を行っていく上で、各国が最も重視すべき政策視点として、次の三点を挙げたいと思います。

 第1に、各国政府は、「社会的公正」の実現のため、人間優先の社会開発を重視すべきであります。我々は、世界的な軍縮を推進していく必要があり、その中で、より多くの国内予算を社会開発プログラムに割り当てるような自助努力を強化していかなければなりません。

 第2に、教育、訓練などの人づくりです。国づくりにおいて、障害者等社会的に不利な立場にある人々も含めた、市民一人一人の能力を開発していく人づくりの重要性は、あらためて申すまでもないでありましょう。

 第3に、社会開発は政府だけで行い得るものではなく、NGOを含む市民社会全体による積極的参画が重要であります。特に、女性は社会発展の重要な担い手であり、私は、男女が共に社会に参画し、社会の発展を支えていくという男女共同参画社会の実現が、社会的公正や開発の達成にとって不可欠であると考えます。この一環として、私は、家族的責任を有する男女労働者の職業上の責任と家族的責任との両立を目的とするILO第156号条約締結の承認を、日本の議会に求めております。

(国際協力分野)

議長、

 以上申し上げたような視点に立って、先進国は、途上国の自助努力を支援すべく、ODAを社会開発分野に重点的に配分していくべきであります。

 我が国も、次の3点に積極的に取り組みたいと考えます。

 第1に、我が国は、人間優先の社会開発を重点分野としております。現在この分野は我が国の二国間ODAの20%を超えるに至っていますが、引き続き最重要課題として取り組んでいきたいと考えます。更に、先進国と途上国がNGOも含めて協力を強化していくとともに、国連及びILOなどの専門機関や世銀、IMFなど個々の国際機関が密接な協調を図っていくべきであると考えます。

 第2に、我が国は、途上国の教育や職業訓練に対する援助を、過去10年間で4倍以上に拡充しておりますが、今後ともこの分野の協力を重点的に進めていきたいと考えます。その際、例えば、経験ある途上国の技術や知識を他の途上国の社会開発に役立てていくという意味で、「南南協力」も有効であり、我が国としては、具体的協力の促進にできる限りの支援を行うことを考えております。

 第3に、途上国の開発、就中、社会開発の分野における女性の役割の重視であります。昨年9月の国際人口開発会議において、リプロダクティヴ・ヘルスの重要性が確認され、人口問題における女性の役割が強調されました。更に本年の9月には北京で世界女性会議が開催されますが、我が国は、従来から、途上国の女性支援の分野において積極的な協力を行っており、更にこの分野における協力の充実を図っていきたいと考えます。

(結び)

議長、

 今日、世界は一つの共同社会を構成しており、環境、人口、食料の安定供給、エイズ、難民といった地球的規模の課題に対しても、地球市民の私たちが手を携えて取り組まなければなりません。そのためには、この社会開発サミットで採択される宣言及び行動計画の実現に向けて、世界の人々が共に、全力を傾けて進む必要があります。地球市民の一員として、我が国は、これに積極的貢献を行っていくことを、ここに再度約束したいと思います。

 ありがとうございました。