データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 米国ミズーリ州フルトン市ウェストミンスター・カレッジにおけるチャーチル演説(鉄のカーテン演説)

[場所] アメリカ,ミズーリ州フルトン市ウェストミンスター・カレッジ
[年月日] 1946年3月5日
[出典] 現代国際関係の基本文書(上),一般財団法人鹿島平和研究所編,日本評論社,659-661頁
[備考] 
[全文] 

   (前略)

 バルト海のシュテッティンからアドリア海のトリエステまで大陸を横切って鉄のカーテンがおりている。このカーテンの背後には中央及び東ヨーロッパの古い諸国の首都が存在する。ワルシャワ、ベルリン、プラハ、ウィーン、ブダペスト、ベオグラード、ブカレストそしてソフィア、これら全て有名な都市とその周辺の住民は、私はこう呼ばなければならないが、ソ連圏というものの中に存在し、その全てが、どんな形であれ、単にソ連の影響下にあるだけでなく、モスクワの強い、またはいくつかの場合には強まりつつある、支配下にある。ギリシャの不死の栄光をもつアテネのみが、英国、米国、フランスの監視の下での選挙において自分の未来を決める自由を有している。ロシアに牛耳られたポーランド政府は、ドイツに対して甚大で不正な蚕食をするよう奨励され、何百万というドイツ人の追放が現在痛ましく、かつ思いもよらない規模で起きている。諸共産党は、これら東ヨーロッパ諸国ではごく小さかったが、その人数をはるかに越えた高い地位と権力を与えられ、今やあらゆるところで全体主義的な支配を獲得することを狙っている。警察政府がほぼ全ての場合に優勢にな っており、これまでのところチェコスロヴァキアを除き、真の民主主義は存在していない。

   (中略)

 ヨーロッパを横断する鉄のカーテンの手前でも他の心配の種が存在する。イタリアでは共産党が、アドリア海の先端にある旧イタリア領に対する共産主義者チトー元帥の要求を支持せざるを得ないような深刻な脅威にさらされている。しかしながら、イタリアの未来はどうなるかわからない。また、強力なフランスなしに再生したヨーロッパなど想像できない。私の全公的生活において、私はフランスがその最悪のときにおいてもその命運に信頼をなくしたことはなかった。私は今も信頼を失っていない。しかし、ロシアの国境から遠く離れた全世界の多くの国々で、共産主義者の第五列が作られ、完全な一体化と共産党の中央から受け取る絶対的な命令の下で活動している。共産主義が幼稚な状態にある英連邦と米国とを除き、諸共産党とその第五列によるキリスト教文明に対する挑戦と危険が増大している。これらは、武装したすばらしい連帯や自由と民主主義の理想の下に勝ち取った勝利の直後に誰もが復唱しなければならない陰鬱なる事実であるが、時間がまだある間にそれらの事実に敢然と立ち向かわないとしたら、我々は最も愚か者と言わねばならないだろう。

   (後略)