データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] トルーマン大統領の上下両院合同会議演説(トルーマン・ドクトリン)

[場所] 
[年月日] 1947年3月12日
[出典] 現代国際関係の基本文書(上),一般財団法人鹿島平和研究所編,日本評論社,467-473頁
[備考] 
[全文] 

 現在の世界が直面する事態はきわめて重大であるため私が両院合同会議に臨む必要を生じた。問題は米国の外交政策と国家安全保障に関連するものである。

 私が今回諸君の考慮と決定を求めるため提出する現事態の一面はギリシァとトルコに関するものである。

 米国はギリシァ政府から財政および経済上の援助につき緊急要請に接した。目下ギリシァにある米国経済使節団の中間報告および駐ギリシァ米国大使の報告はいずれもギリシァが自由国家として存立するためには援助が絶対必要であるとのギリシァ政府の言明を裏書している。

 (中略)

 今日ギリシァは共産主義者に指導された数千の武装員によるテロ行動に脅かされてその存立をすら危くしている。これら共産主義者は数地点とくに北部国境方面において政府の権威に反抗している。国際連合安全保障理事会が任命した一委員会は目下北部ギリシァの混乱状態およびギリシァとアルバニア、ブルガリア、ユーゴースラヴィア三国双方の国境侵犯申立につき調査中である。

 その間ギリシァ政府は事態に対抗することができない。ギリシァ陸軍は兵力も少く装備も悪い、ギリシァ全領土にわたって政府の権力を回復するには兵站と装備を必要とする。

 ギリシァは自立自尊の民主主義国となるためには援助を受けねばならない。

 この援助は米国が与えねばならない。われわれはすでにいろいろの救済や経済援助をギリシァに供与して来たが、これらはまだ不十分である。民主的ギリシァが頼り得る国は他にはなく、民主的ギリシァ政府に必要な支援を与える意思をもちこれを実行し得る国は他にないのである。

 英国政府は従来ギリシァを助けて来たが、3月31日以降財政的、経済的いずれの援助もつづけることができない。英国はギリシァを含む世界数地域において自国の受持つ負担を減少あるいは整理する必要に当面したのである。

 われわれは国際連合がこの危機に際していかに援助するかについて考慮した。しかし事態はただちに行動を必要とするほど切迫しており、かつ国際連合およびその関係諸機関は要求される種類の援助を供しうる立場にはない。

 ギリシァ政府が米国からギリシァに与えようとする財政その他の助力を効果的に利用し、国内行政を改善するために援助を求めている点に注目することが重要である。さらに重要なことは米国がギリシァに与える資金の使途について1ドルといえどもそれがギリシァの自立化達成と健全な民主主義が成長し得る経済建設に役立つよう費消されることを米国が監督するという点である。

   (中略)

 ギリシァの隣国トルコもわれわれの注意を要する。世界の自由愛好国民にとつて、独立しかつ経済的に健全な国家としてのトルコの将来はギリシァの将来に劣らず重要である。今日トルコが置かれている環境はギリシァとはかなり異つている。トルコはギリシァに加えられた破滅から免れた。戦時中米英両国はトルコに物的援助を与えた。それにも拘わらずトルコは今日われわれの支援を必要としている。

 戦後トルコは米英両国に対し国家の独立維持に必要な近代化を達成する目的で、財政援助の追加を求めた。かかる独立は中東の秩序維持に不可欠である。

 英国政府は自国の諸困難からこれ以上トルコに財政的または経済的援助を供与できなくなつた旨を米国に通告した。ギリシァの場合と同様、もしトルコが必要とする援助を受けるべきだとすれば、米国がこれを与えねばならないのである。米国だけがこの援助を与え得る国である。

 米国がもしギリシァおよびトルコに援助を与えた場合、それがいかに広汎な意義をもつかについて私は十分承知しており、ここにその意義について諸君とともに論じよう。

 米国外交政策の主要目標の一つはわれわれが他の諸国とともに強制から解放された生活を営むことができるような条件をつくり出すことである。これは日本とドイツに対する戦争においても根本目的であつた。われわれの勝利は自国の意思と生活様式とを他国に強制しようとした国々に対して得られたものであった。

 強制から解放された国家間の平和的発展を保障するために、米国は国際連合の創設に指導的役割を演じてきた。国際連合はその全加盟国に永遠の自由と独立とを可能ならしめるよう設計されたものである。しかしながらわれわれが、全体主義体制を課そうと試みる侵略的行動に対して自由な政体と国家の独立を維持しようとする自由国民を援助しないならば、われわれはその目的を実現できないであろう。われわれは直接間接の侵略によって自由な国民に強制された全体主義的体制が国際平和をおびやかし、ひいては米国の安全をそこなうにいたることを率直に認めるほかない。

 若干の国家の国民が最近その意思に反して強制され全体主義体制をとった。米国政府はポーランド、ルーマニアおよびブルガリアにおいてヤルタ協定を侵犯して強制と恐喝が行われたことに対し再三抗議して来た。またそれ以外の二、三の諸国においても同様の事態が発展しつつあることを私は言及しなければならない。

 世界史の現瞬間においてはほとんどすべての国が相異る生活方式のいずれかを選ばねばならないが、その選択が自由に行われていない場合が非常に多い。

 一つの生活方式は多数者の意思にもとづき、自由な政体、代議政府、自由選挙、個人的自由の保障、言論、信教の自由および政治的抑圧からの自由を特徴としている。

 第二の生活方式は多数者に対し強制的に加えられる少数者の意思にもとづく。その手段はテロ、弾圧、出版ならびに放送に対する統制、自由ならざる選挙および個人的自由の抑圧である。

 私は武装少数派または外部からの圧迫による奴隷化に反抗しつつある自由国民を支持することこそ米国の政策でなければならないと信ずる。

 私は自由国民が独自の方式で彼等自身の運命を解決するのを米国が援助せねばならないと信ずる。

 私はわれわれの助力が第一に経済的安定と秩序ある政治過程にとって不可欠な経済的、財政的援助によって行わるべきものであると信ずる。

 世界は静止したものではなく、現状維持はかならずしも聖なるものではない。しかしわれわれは圧制のごとき方法により、あるいは政治的浸透のごときごまかしによって国際連合憲章が侵犯され現状に変更が加えられることを黙過することはできない。自由かつ独立の諸国の自由維持を援助するに当り、米国は国際連合憲章の諸原則を実現せしめるつもりである。

 ギリシァ国家の生存と保全とがより広汎な事態の中できわめて重要性を持つていることは地図を一見しただけで明らかである。もしギリシァが武装少数派の手中に落ちたならば、その影響はたちまち直接に隣国トルコに及ぶであろうし、重大な混乱と無秩序が中東地方全域に波及するに違いない。

 それ以上に独立国家としてのギリシァが姿を消すことは、戦争による被害を復旧しながら自由と独立を維持するためにその国民が大きな困難と闘いつつある欧州諸国に深刻な影響を及ぼすであろう。もし長期にわたり圧倒的なハンディキャップに対して闘って来たこれら諸国が、多大の犠牲を払って獲得した勝利を失うこととなれば、これはたとえようもない悲劇であろう。自由な政体の崩壊と独立の喪失とは単に彼等にとつてのみでなく世界にとって破壊的であろう。自由と独立の維持に努めつつある隣接諸国民もたちまち失望とおそらくは失敗の運命に陥るであろう。

 もしわれわれがこの宿命的な時にギリシァとトルコを援助し得なかったならばその影響は東方に対すると同様西欧に対してもはかり知れないものがある。われわれは即時かつ断乎たる行動をとらねばならない。

 したがって私は、ギリシァおよびトルコ援助のため1948年6月30日までの期間に4億ドルの支出権限を与えるよう議会に対して要請する。これらの資金を要請するに当り、私は戦災諸国の飢餓と苦難を防止すべく最近私が議会に権限付与を要請した3億5000万ドルのうちから、ギリシァに供与さるべき最大限度の救済援助額を考慮した。

 (後略)