データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] マーシャル国務長官ハーバード大学演説(マーシャル・プラン)

[場所] ハーバード大学
[年月日] 1947年6月5日
[出典] 現代国際関係の基本文書(上),一般財団法人鹿島平和研究所編,日本評論社,473-477頁
[備考] 
[全文] 

   (前略)

 欧州復興のための諸要求を考慮するに当って、戦争による生命の喪失、都市、工場、鉱山、鉄道等眼で見える破壊は正確に見積もられている。しかしこの眼で見える破壊も欧州経済の全組織の混乱に比べれば、さほど重大ではないということが最近数カ月間に明らかとなつて来ている。過去10カ年間の情勢は著しく変則的であつた。

 熱病的な戦争準備とそれ以上に熱病的な戦争努力の持続とが国民経済のあらゆる面を巻込んでしまった。機械は修理されずに放置され、あるいは完全に時代おくれとなっている。ナチの専制的かつ破壊的支配下にあっては、事実上利用できるすべての企業はドイツの戦争機構に繰入れられた、長年の商取引関係、民間諸制度、銀行、保険会社、船会社などは資本の喪失、国営化による吸収で、あるいは軍に破壊されたために消滅した。

 多くの国々では各国通貨にたいする信用がいちじるしく低下している。欧州の商業構造は戦時中完全に崩壊した。終戦後2カ年を経過してもドイツとオーストリアとの講和について同意が得られないでいるという事実により復興はいちじるしく遅延されて来た。しかしたとえこれらの困難な諸問題が急速に解決できたとしても、欧州経済構造の復興には当初予想されたよりも遥かに長い期間と大きな努力を必要とすることが明らかである。

 この問題には興味があると同時に重大でもある一面が存する。農民はつねに都市居住者との間で他の生活必需品と交換するために食糧を生産して来た。この分業は近代文明の基礎をなすものである。しかるにこの分業は今日崩壊に瀕している。都市の諸工業は食糧を生産する農民と交易するのに十分な商品を生産していないのである。原料と燃料の供給が不足し、機械は足らないかまたは損耗している。

 農民が買いたい品物は売りに出ていない。したがって農民は使えない貨幣を得るために農産物を売るのは不利な取引だと考える。そこで農民は多くの耕地で穀類栽培をやめこれを牧畜用いている。そして家畜類により多くの穀類を与え、衣料その他文明的な日用品にはどんなに不足しても食糧だけは自分自身も家族も十分に食べられるようにしている。これに対し都会の住民たちは食糧と燃料に不足している。そのため諸政府はこれらの必需品を海外で購入するために手持外貨とクレディットとを使わねばならなくなる。このような過程を経て復興のために緊急必要な資金が枯渇してしまうのである。かくして全世界にとって甚だよろしくない事態が迅速に招来される。物資交易の基礎となっている近代的分業組織は正に崩壊の危機にさらされているわけである。

 欧州においては今後3、4年間は外国産の食糧およびその他の必需品−−−主として米国から−−−に対する需要が支払能力よりも遥かに大きく、相当な援助が追加供与されなければ由々しい経済的、政治的頽廃に当面するほかないというのが真相である。

 この救済策としてはかかる悪循環を破り、欧州国民に自国および欧州全体の経済的将来性に対する自信を回復させることである。広い地域を通じて工業家と農民とが自己の生産品を不安のない安定価値をもつ通貨と交換できることとなり、かつ進んで交換するようにならねばならない。

 これら関係国民が絶望的となることにより、世界を通じて人心の沈滞を招き、かつ混乱状態発生の可能性があることを別にしても、米国経済への影響は十分明白に理解されねばならない。世界を正常な経済的健康状態に復帰させるために米国ができるだけの援助を与えねばならぬのは当然のことで、世界経済が健康を回復しなければ政治的安定も保障された平和もあり得ない。

 われわれの政策はいずれの一国あるいは政治思想をも対象にしているものではなく、実に飢餓、貧困、自棄および混迷などを対象としているのである。その目的は自由な諸制度が存在できる政治的、社会的条件の出現を許容するような能動的な経済を世界に復活させることであらねばならない。かかる援助は各種の危機が発展する都度、断片的に与えてはならないと私は考える。米国政府が今後与える援助は単なる鎮静剤としてではなく全治させる効果をもつものであるべきである。

 復興事業を援助する意思をもついかなる国の政府も米国政府の全面的協力を見出すであろうと確信する。他国の復興を妨害しようと試みるいかなる政府もわれわれから援助を期待することはできない。さらに又、政治的その他の利益を収める目的で人類の悲惨な状態を永続させようと試みる政府、政党、団体などは米国の反対に直面するであろう。

 米国政府が事態を緩和し、欧州の復興へ邁進するのを助けるためにさらに一層の努力を傾ける前に、まず欧州諸国の間で現在何が必要とされているか、また米国が将来行う行動を最も効果的にするためには欧州各国自体がどのような役割を演ずべきかということについて何らかの意見一致を見なければならないということはすでに明白となっている。欧州を経済的に自立させることを目的とした計画を米国が単独で一方的に立案することは適当でもなければ、また決して効果的でもない。これは欧州人自身の仕事である。イニシアティヴは欧州側から出なければならないと私は考える。米国の役割は欧州復興計画の作成には好意ある援助を与え、さらに後には米国が実際に援助できる範囲内でこの計画を支持することにあるべきである。本計画は欧州国家全部とまで行かなければ、相当数の国々によって意見の一致を見た共同計画でなければならない。

   (後略)