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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国家安全保障会議文書68「アメリカ合衆国の国家安全保障のための目標と計画」(NSC68文書)

[場所] 
[年月日] 1950年4月14日
[出典] 現代国際関係の基本文書(上),一般財団法人鹿島平和研究所編,日本評論社,483-489頁
[備考] 
[全文] 

   (前略)

結論と提言

結論

   (中略)

 危険の緊急性を考慮すれば、ソ連の脅威についてNSC文書20/4が言及している以下の点は依然として有効である。

 14. 予見しうる将来において米国の安全保障にとって最も重大な脅威は、ソ連の敵対的な意図及び脅威的な力並びにソ連というシステムが有する性質から発生している。

 15. 非共産主義諸国が十分な対抗策を持たない限り、現在ソ連が遂行している政治的、経済的並びに心理的戦争は、世界における米国の立場を相対的に弱め、戦争にまでは至らない手段によって米国の伝統的な諸制度を破壊する危険な潜在力を持っている。

 16. ソ連との間に戦争のリスクが存在するということは、慎重にみても米国が時宜に叶い、かつ適切な準備をすることを十分正当化するものである。

(a)ソ連の指導者たちはおそらく米国を巻き込むような計画的な武力行使を現時点では企図していないというのが目下の評価ではあるが、しかしソ連が意図的に戦争に訴える可能性が全く排除されるわけではない。

(b)現在及び予見しうる将来において、自国の安全を守るために持ちうるすべての手段を使うとの米国の決意をソ連が見誤ったり、あるいはソ連が米国の意図を誤解したり、更には米国がとる手段に対するソ連の反応について米国が判断を誤ることなどにより戦争が起こる危険は絶えず存在する。

 17. たとえ、それが武力による侵略であろうと、政治的手段または破壊活動によるものであろうと、ソ連のユーラシア支配は米国にとって戦略的にも政治的にも受け入れがたいものである。

 18. 平時・戦時を問わず、米国の安全に対する脅威に対処する能力、また米国の目標を達成する能力は、とりわけ米国内での以下の現象によって著しく弱められるであろう。

(a) 深刻なスパイ活動及び破壊活動、とくに統一がとれ、統制のとれた共産主義活動。

(b) 長引く深刻な不況。

(c) 国内での政治的、社会的不統一。

(d) 不適切かあるいは過剰な軍備や対外援助支出。

(e) 平時における過剰ないし無駄な資源の使用。

(f) 宥和策への誘惑、外交政策実施の際の拙劣さ、または世界における責任の回避などによる権威と影響力の減少。

(g) ソ連の戦術の見せかけの変化により誤った安全保障観が強まること。

 上記のパラグラフ18で指摘したこのような推移が、安全保障面でソ連の脅威に対処する米国とその同盟国の能力を著しく低下させるおそれはあるが、他方、1948年以来、その能力を高める基盤作りが急速に進展していることも事実である。

 NSC20/4文書(パラグラフ19)に言及されている戦時及び平時における、ソ連に関する我々の目標は、同文書(パラグラフ20及び21)に言及されている手段と同様、依然として有効である。我々の現在の安全保障計画及び戦略計画はこれらの目標、手段を基礎に形作られている。

 19. (a)ソ連の力と影響を、世界の国家の平和、独立、安定を脅かすものとならない程度に減少させること、

(b)ロシア現政権の対外関係における行動を、国連憲章に定められた目的と原則に合致するよう、根本的に変更させること、

 この目標を追求するにあたっては、経済や我々の生活様式に根づいた基本的価値、制度を損なわないよう十分な注意を払わなければならない。

 20. 我々は、以下の目的を達成するため、戦争に至らない手段により我々の全体的な目標の実現に努めなければならない。

(a)伝統的なロシア国境の周辺地域からロシアの正当化できない力や影響が漸進的に減少していくこと、またソ連の衛生国がソ連から独立した存在となることを奨励し促進すること。

(b)ソ連の諸民族間において、現在のソ連の行動を変化させ、また民族的独立を維持または達成する能力や決意の存在を示す民族グループの復活を許すような傾向を助長すること。

(c)ソ連の軍事的影響から遠く離れた地にある民族さえもモスクワに取り込まれてしまう原因となる神話を根絶し、ソ連に支配された世界の共産党の真の姿を理解させ、またそれらに対して論理的で現実的な態度をとらせること。

(d)ソ連政府に、現在の考え方に基づいて行動することが現実には望ましくないことを悟らせ、国連憲章の目的と原則に盛られた国際的な行動規範に従って行動する必要性を認識させるよう強いる状況を作り出すこと。

 21. これら目的を達成するために米国は、

(a)ソ連の侵略に対する抑止力として、ソ連に対する我々の政治的な姿勢への不可欠な支えとして、ソ連の政治的侵略に抵抗している諸国民に対する励ましとして、そして戦争が不可避となった場合に即時の軍事的対応と迅速な動員のための基礎として、必要な限り軍事的な即応体制を整備する。

(b)破壊活動やスパイ活動の危険に対して米国の国内的な安定を確保する。

(c)平時の経済を強化し、戦時に不可欠な予備を確保することを含め、我々の経済の潜在力を最大化する。

(d)非ソ連諸国民を米国に惹きつけるための努力を強化する。また自国の経済的・政治的な安定と軍事能力を高めようとし、更には米国の安全保障に必要な貢献をし、また喜んでそうしようと思っている諸国民を支援する。

(e)ソ連の権力機構、とりわけモスクワとその衛星国との関係に最大限の緊張を強いる。

(f)我が国に対する脅威につき、米国民に十分情報を提供し、理解させ、我々が採る手段を支持する準備をさせる。

   (中略)

 米国が自由世界の中心的勢力であることは、米国がリーダーとして重い責任を負っていることを示している。我々は、クレムリンが妥協せざるをえないような状況を自由世界で作り出すことによってクレムリンがねらう世界支配を挫折させるために、自由世界の諸エネルギーと諸資源を発掘し、組織化しなければならない。米国をリーダーとするこのような協力のために努力しなければ、我々は圧力を受けてじりじりと退却せざるを得なくなり、ついには死活的な利益が犠牲になってしまったと気が付くことになろう。

 このような傾向は、米国及び自由世界の他の諸国の双方が、迅速に、かつ協調して力を増強することによって跳ね返すことが肝要である。分析によれば、これには金がかかり、国内での相当な財政的、かつ経済的な調整が必要となる。

   (中略)

 結論を要約すれば、自由世界の迅速で、一貫した政治的、経済的、かつ軍事的な力の増強により、またソ連から主導権を奪い取るとの確固とした計画により、世界を支配しようとするクレムリンの企図を挫折させるために、自由世界の決意と能力の証拠をはっきり見せつけることでクレムリンに対抗しなければならない。このような証拠を示すことが、戦争に至らないで、究極的にクレムリンに現在の路線をあきらめさせ、重要な問題につき受け入れられる合意ができるよう交渉に応じさせる唯一の方法である。

 今回提案している計画が成功するか否かは、政府、米国民、及び自由世界の諸国民が冷戦は本当の戦争であり、自由世界の生存が危機に瀕しているとの認識を持つかどうかにすべてかかっている。この計画が成功するためには、この計画が超党派の支持を得たものとするために議会指導者と協議すること、また現在の国際情勢の事実やその意味合いについての国民一般に対して十分説明することが必須の条件である。そしてこの計画の実施のためには、問題の死活的な重要さ及び我々の国家的目標が達成されるまであきらめない根気強さとが要求している創意工夫、犠牲、そして団結が必要である。

提言(略)