データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名]第40代東條英機内閣(昭和16.10.18〜昭和19.7.22)
[国会回次](帝国)第78回(臨時会)
[演説者]東郷茂徳外務大臣
[演説種別]国務大臣の演説
[衆議院演説年月日]1941/12/16
[貴族院演説年月日]
[全文]

畏クモ本月八日米英兩國ニ對スル宣戰ノ大詔渙發セラレマスルヤ、皇軍ハ忽チニシテ太平洋ヲ制壓シ、國威ハ宇内ニ輝キ、國運將ニ劃期的發展ノ緒ニ就キマシタ秋ニ當リ、茲ニ所見ヲ開陳致シマスルノハ私ノ最モ光榮且ツ欣幸トスル所デアリマス

日米交渉ヲ打切ルノ巳ムヲ得ナカツタ事情ハ、曩ニ詳細公表致シマシタ通リデアリマスルガ、今次大戰ノ由ツテ來ル所ハ、米英兩國政府ガ帝國ニ對シ重慶政權援助ニ依ル對日壓迫ニ慊ラズ、進ンデ經濟斷交ヲ行フト共ニ、八箇月ニ渉ル我ガ方ノ公正ナル主張ニ耳ヲ籍スコトナク、却ツテ帝國ニ對スル包圍陣ヲ強化シ、且ツ挑戰的態度ヲ執リ來ツタコトニ存スルノデアリマス、更ニ其ノ根源ヲ究明スレバ、米英兩國政府ガ專ラ自國本位ノ現状維持ヲ圖リ、萬邦共榮ノ要義ヲ排除シテ、其ノ搾取的支配ヲ押通シ、全世界ヲ其ノ制覇ノ下ニ屈從セシメントシタルコトニ原因スルモノデアリマス(拍手)而モ驕慢ナル米英兩國政府ハ帝國ノ實力ヲ輕侮シ、軍事的、經濟的威嚇ヲ以テ容易ニ帝國ヲ壓服シ得ベシト臆斷シ、交渉ヲ遷延セシメツツ包圍ノ態勢ヲ強化シ來ツタノデアリマス、若シ米英兩國ノ斯カル態度ヲ容認スルガ如キコトアリトセバ、帝國ハ支那事變四箇年餘ニ亙ル建設的成果ヲ犠牲トスルノミナラズ、帝國ノ生存ヲ脅威セラレ、權威ヲ失墜スルコトト相成リマスルノデ、帝國政府ハ本交渉打切ヲ米國政府ニ通告シ、帝國ノ自存ノ爲メ、又東亞ノ安定ノ爲メ、已ムヲ得ズ米英兩國ヲ敵トシテ立上ルニ至ツタノデアリマス(拍手)

然ルニ米國政府ハ、帝國ガ無警告ニ突如戰爭ヲ開始セリト宣傳シテ居ル趣キデアリマスルガ、先ヅ決戰態勢ヲ執ツテ挑發シ來ツタノハ米國政府自體デアリマス(拍手)帝國ノ平和維持ニ關スル熱望ヲ裏切リ、戰ヒヲ我ニ強制シタルモノハ實ニ米英兩國政府デアリマス(拍手)私ハ前議會ニ於テ、帝國ノ協調的熊度ニモ自ラ限度アルコトヲ明確ニシテ置イタノデアリマシテ、此ノ點ハ米國政府ニ於キマシテモ十分承知シテ居タ筈デアリマス(拍手)又米國政府ハ、帝國ノ容認シ得ル限度ガ如何ナルモノナリヤニ付テモ、長日月ノ交渉ニ依リ篤ト承知シテ居ツタ筈デアリマス(拍手)ソレニモ拘ラズ米國政府ガ此ノ限度ヲ超エタル要求ヲ我ニ強要スルコトガ如何ナル結果ヲ招來スルヤハ、米國政府ニ於テ當然豫測シテ居ツタ筈デアリマス(拍手)若シ夫レ帝國ノ協調的態度ニモ限度アリトノ聲明ヲ、駈引又ハ恫喝ナリト考ヘテ居ツタト致シマスレバ、米國政府モ迂濶デアツタト言フノ外アリマセヌ(笑聲、拍手)目下米英兩國民ハ、自己ノ非ヲ蔽ハントスル政府ノ宣傳ニ耳ヲ奪ハレテ居ル模樣デアリマスルガ、段々其ノ氣持ガ落着クニ從ヒ、冷靜ニ戰爭ノ發生原因ヲ考察シ、「日米交渉ヲ正シク批判シ、「ルーズヴェルト」「チャーチル」外交ヲ再検討シ、此ノ戰爭ノ眞ノ原因ガ那邊ニ存スルヤノ點、即チ米英現政府ガ總テ其ノ責ニ任ズベキモノデアルコトニ付テ、速カニ了得シ來ルベシト考フルモノデアリマス(拍手)

今次ノ對米英戰爭ハ、要スルニ國際體制ニ於ケル舊秩序ノ維持ト、新秩序ノ建設トノ鬪爭戰タルノ本質ヲ有スルノデアリマス(拍手)從來米英兩國政府ハ舊秩序維持ノ爲ノ手段トシテ、全世界ニ亙リ、自己ニノミ好都合ナル原則ヲ固守シテ參ツタモノデアリマシテ、今次交渉ニ於テモ米國政府ハ英國政府ト苟合シ、利己的原則ノ主張ヲ一歩モ讓ルコトナク、支那其ノ他ノ諸國ヲ隷屬視スル傳統的態度ヲ改メナカツタモノデアリマス、隨テ今次ノ戰爭ハ大東亞解放ノ性格ヲ有スルモノデアリマス(拍手〉此ノ點ハ我ガ國民ノミナラズ、東亞ノ諸國ガ篤ト了解スベキ所デアリマス(拍手)隨テ帝國ガ一タビ奮起スルヤ、東亞ノ諸國ハ、帝國ノ平和理念及ビ今次大戰ノ由來ヲ了解スルト共ニ、東亞ノ大勢ヲ明察シ、翕然トシテ帝國ニ協力シテ參ツタノデアリマス(拍手)

既チ滿洲國ハ逸早ク帝國ト全面的ニ協力スルノ態度ニ出ヅルコトヲ闡明シ、又中華民國南京政府ハ、帝國ニ對シ完全ナル協力ヲ聲明セル次第デアリマス、今ヤ過去百箇年ノ久シキニ亙ツテ東亞ヲ植民地的搾取ノ對象トシ來ツタ米英ノ勢力ハ、支那ヨリ驅逐サレントシツツアルノデアリマシテ(拍手)開戰後忽チニシテ、米英ノ支那ニ於ケル搾取政策ノ據點タリシ租界其ノ他ニ於ケル政治的勢力ガ排除セラルルニ至リマシタコトハ、三十年前中華民國國民革命ノ第一ノ宿願ガ、今日初メテ達成セラレタモノデアリ(拍手)其ノ意義極メテ重大ト申サネバナリマセヌ(拍手)

更ニ「タイ」國トノ關係ニ付キマシテハ、同國政府ハ克ク帝國ノ意圖ヲ諒解シマシテ、其ノ決斷ニ依リ帝國軍隊ノ「タイ」國通過ニ關シ了解ノ成立ヲ見、爾來帝國軍隊ハ平和裡ニ同國ヲ通過シツツアリマス、而モ今囘更ニ攻守同盟締結方ニ付キ、坪上大使ト「ピブン」首相トノ間ニ意見ノ合致ヲ見マシタルコトハ、獨リ日「タイ」兩國ノ爲ノミナラズ、東亞ノ興隆ノ爲メ洵ニ喜バシキ限リデアリマス(拍手)尚ホ佛領印度支那ニ於テモ佛國側ガ帝國ノ立場ニ十分ナル理解ヲ示シ、帝國ト佛印トノ協力ヲ一層強化スルノ態度ニ出デ、共同防衞ノ實施ニ付キ凡ユル便宜ヲ供與シテ居ルノデアリマス、斯クノ如クニシテ赫々タル戰果ト相俟ツテ諸友邦トノ平和的提携ニ依リ、包圍陣突破ノ態勢ガ急速ニ擴充強化セラレタノデアリマス(拍手)

從來東亞ノ諸國中ニハ帝國ノ眞意ヲ了解セズ、疑惑ノ眼ヲ以テ眺ムルモノモアツタノデアリマスルガ今囘帝國ガ破邪ノ劍ヲ揮フヤ、東亞ノ諸國ハ、帝國ノ目標トスル所ガ東亞ノ解放興隆ニアルコトヲ了解シ、衷心協力スルニ至ツタノデアリマス、斯クシテ東亞ハ其ノ本然ノ姿ニ還リツツアルノデアリマシテ、洵ニ慶賀ニ堪ヘザル所デアリマス(拍手)固ヨリ之ニ依ツテ東亞諸國ノ帝國ニ對スル期待ハ益々増大致シタコトハ申スマデモナイ所デアリマシテ、之ニ伴フ帝國ノ責任ハ一層重大トナツタノデアリマスルガ、我ガ國民ハ此ノ期待ニ副ハンガ爲メ、牢固タル覺悟ヲ以テ最善ノ努力ヲ致スベキデアリマス

更ニ進ンデ獨伊兩國トノ關係ニ付キマシテハ、御承知ノ通リ帝國ノ對米英宣戰ニ引續キ、去ル十一日獨伊兩國ハ米國ニ對シ宣戰スルト共ニ「ベルリン」ニ於テ日獨伊三國ノ間ニ新タナル協定ガ成立致シマシタ、既チ之ニ依リ日獨伊三盟邦ハ米英兩國ヲ共同ノ敵トシテ、勝利ニ終ルマデ干戈ヲ收メザル確乎不動ノ決意ヲ闡明シ、單獨不講話ヲ約シ、且ツ三國同盟條約ノ意義ニ於ケル新秩序建設ニ對スル協力ヲ誓ツタモノデアリマスルガ、斯クノ如キ戰爭ノ共同遂行ト共ニ世界究極ノ平和ヲ目標トスル條約ガ三國間ニ締結セラレ、東西ニ位スル日獨伊三國ガ更ニ團結ヲ固メマシタコトハ、洵ニ史上ノ壯觀デアツテ(拍手)三國ノ協力ハ必ズヤ是ガ結實ヲ見ルベキコト毫モ疑ヒノ餘地ガナイノデアリマス、尚ホ其ノ他ノ歐洲諸國ニ於キマシテハ、獨伊兩國ノ外「ハンガリー」「ルーマニア」「フインランド」ハ曩ニ英國ト交戰状態ニ入ツタノデアリマスガ、今次獨伊ノ對米宣戰後直チニ「ハンガリー」「ルーマニア」及ビ「ブルガリア」ハ對米參戰ヲ宣言致シマシタ、斯クノ如ク歐洲ノ諸盟邦ガ帝國ニ呼應シテ共通ノ敵ニ向ツテ立上リツツアルコトハ、眞ニ快心ニ堪ヘヌ所デアリマス、今ヤ世界ハ前古ニ比類ナキ大轉換期ニ際會シテ居ルノデアリマスルガ、帝國ハ益々獨伊初メ盟邦諸國トノ提携ヲ緊密ニシ、此ノ正義ノ爲ノ戰ヒヲ完全ナル勝利ニ至ルマデ遂行スルト共ニ、米英兩國ノ現状維持ヲ基礎トスル獨善的平和理念ヲ排撃シ、公正ナル新秩序ノ建設ニ邁進シ恆久的世界平和ノ確立ニ貢獻セントスルモノデアリマス(拍手)

最後ニ「ソ」聯邦トノ關係ニ付キマシテハ、前議會ニ於キマシテモ明カニ致シテ置キマシタ通リ、帝國政府ハ北方ノ安全ヲ確保セントスル態度ニ何等ノ變更ナキモノデアリマスルガ、「ソ」聯政府ニ於テモ、日「ソ」中立條約ヲ遵守スルノ意向ハ屡々之ヲ表明致シテ居ル次第デアリマス

凡ソ一國ガ四圍ノ不當ナル障害ニ依ツテ平和裡ニ自然的發展ヲナスコトヲ阻止セラルル場合ニハ、其ノ障害ヲ排除スル爲ニ干戈ヲ執ルノ已ムヲ得ザルニ至ルコトアルハ世界史上幾多ノ事例ヲ存シ、我ガ明治ノ發展期ニ於キマシテモ、日清、日露兩戰役ニ於テ其ノ實例ヲ見タ次第デアリマスルガ、今次大東亞戰爭ハ帝國ノ隆替ノミナラズ、東亞ノ興亡、世界ノ運命ノ岐ルル所デアリマシテ、其ノ意義重大ナルコトハ日清、日露兩戰役ニ幾倍スルモノガアリマス、尚又今次戰爭ハ長期戰ヲ豫想セラレマスノデ、内ニ在リマシテハ一億一心鐵ノ如キ結束ノ下ニ、如何ナル困苦缺乏ニモ堪ユルノ決意ヲ固メ、外ハ帝國ト志向ヲ同ジウスル友邦各國トノ一層ノ緊密ナル連繋ニ力ヲ致シ、戰爭目的ノ貫徹ニ完壁ヲ期スルノ要アルヲ痛感スルモノデアリマスルガ、帝國ニシテ右ノ覺悟ヲ持シ、必勝ノ信念ヲ以テ邁進スル場合、光輝アル終局的勝利ヲ博スベキコトヲ信ジテ疑ハザルモノデアリマス(拍手)